第四章◆つながる【side 霊弥】

「……嬢様、眞姫瓏様は、兄上の五龍神田寳來様を、半年も待っているため、家を出られないのです」


「……寳來、だと?」


≡【side 作者アリス】≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

 画面の向こうの皆様、お気づきになったでしょうか?


 眞姫瓏の兄の名前、読者の皆様にはわかるのではないでしょうか?


 そうです。〝彼〟です。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 一瞬、環吉の言葉を脳内変換できなかった。


 それくらいだった。


 ……待て。待て、本当に待て。


 なぜ、の名が出る?


 五龍神田寳來なんて名前、同姓同名がいる可能性が低すぎる……。


 確実に〝彼〟だ。


 けれども、なぜ、どうして。


 なんで……〝寳來〟の名前が、今出てくるんだ?



「……れ、霊弥殿? どうかしましたか?」


 環吉が俺を現実に引き戻してくれた。


 随分と物思いにふけっていたらしい。


「あっ」


 首を何回か横に振る。


 しかし……。



 ――やはり、頭の片隅には、彼の名前がちらついて消えない。


 見て見ぬ振りができない。


 一度名前を平仮名にして、脳内で漢字変換しても、それはやはり〝五龍神田寳來〟にしかならない。



 寳來には、妹がいる……?


 その妹が、この眞姫瓏、ってことか……?



 そう言えば、寳來の耳の形――。


 普通の人間の耳は、当然ながら、丸っこく、線は弧を描いている。


 けれども寳來は、鋭い三角形――いわゆる洋書で見るような形。人間離れしたやつの耳。


 おそるおそる、眞姫瓏の横髪をどかし、確認する――。



「……!」


 頓狂とんきょうな声が出そうになるほど、だった。


 鋭い三角形……!!


 ……もしかして。


 そう思い、環吉のざっくりとした短髪の隙間から、それを見る。


 彼の耳――も、鋭い三角形であった。


 寳來は半人半妖――つまり、半分は人間だが、半分はあやかし。


 こいつら、まさか――!!


「……あやかし、なのか!?」


 途端、すべてに不信感を覚えた。


 眞姫瓏に膝枕されているとは言え、持ち前の切れ長のツリ目でめ、ひるませることなどは余裕。


 何しろ、今の今まで、この目つきで、年上の不良たちも蹴散らしてきたのだから。


 キッと、環吉を睨みつける。自分の顔形がどのようなものかはわからないが、相当しかめられているに違いない。


 しかし、


「れ、霊弥殿!? な……何か、お気に召さないことが!?」


 腰を抜かしてしまった環吉を見て、これ以上睨もうとは思わなかった。


 いくら人間嫌いだからって、必要以上に人を睨んだり、うならせたり、ということはしない。道徳心ぐらいはある。


「……すまない。あやかしだからという理由で、必要以上に疑ってしまった」


 寳來のように、善良で人間と大層変わらない、道徳的なあやかしも存在するのに、と自分を恥じる。


 そんなことがあっても、眞姫瓏は規則正しい寝息を立て、ぐっすり熟睡している。少し頬をつついてみたが、全く起きない。どれほど図太いんだろうか。


「……頼み事がある」


 意を決して、話してみる。


「──寳來と弟を探すのを、手伝って欲しい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る