善光寺、ロボになる⑧

 何も見えない、聞こえない。

 そして寒い。太陽ってすごかったんだ。

 そうだった。善光寺に『食べられた』んだっけ。とりあえず近くに二人の気配はない。リュックを下ろしてケータイを探るも圏外。そもそも二人の番号すら知らない。

 ……この世には、こわすぎると声も足も出なくなるチキンがいる。私だ。

 どうしてこんなことになっちゃったんだろ。ナガランドで寝てればよかった。そもそもあいつさえ声をかけてこなきゃ。

「希生!」

 そいつの声がして、足が勝手にそっちへ向いた。

 大きな音とともにはね返された。顔を強く打って、その場にうずくまる。痛いのとショックとで目もとがじわっときた。

「お戒壇かいだんめぐりだな。本堂の地下にあって、まっ暗な中を進んでくんだ。けどこんな迷路みたく入り組んでるはずねぇんだけどな」

 マイトの声が壁の向こうからした。もういやだ。立ち上がる気力もない。

「マイト、助けてよ。もう動けない」

「ずっとそこにいろ、おれは一人で出てく」

「ここに連れてきたのあんたじゃん。責任取ってよ」

「何せって(言って)んだ? ついてきたのはおめだしね?」

 ひっどい。なんでそんなこと言われなきゃなんないの?

「人にたよる前にじぶんでなっちょか(どうにか)してみろ。ずくやむだねぇわ」

「だーれがずくなしだっ」

 まったく力が入らなかった両足がうそのようにしゃんとなった。たしか迷路を出る時は、どっちかの壁伝いに動けばいいって。のばした右手のひらで壁を探りながら、注意深く進む。

 ……どこまで行ってもまっ暗だ。景色が変わらないのでどのくらいの時間、どのくらいの距離を歩いたかもわからない。それでも進む。こんなところで死にたくない。

「ぎゃっ」

「あだっ」

 びくともしなかった壁がいきなり力がなくなってすっ転んだ。

「どんでん返しかいな。楽しませてくれるで」

「シチミ!」

 どうも回転ドアみたいなしかけがあって、それのせいで居場所が入れ替わってしまったらしい。シチミがこっちに来てくれた。

「希生、スマホあるか?」

「ダメだよ、圏外」

「電話かけるんやない、床を照らしてほしいねん」  

 適当にボタンを押す。小さな液晶画面が青白く光った。

 暗やみと同じ色をした床の上に、細くて赤い線が走っている。

「落ちたとこからちょっとずつ、七味をまいてきたんや。これがあるとこは一度通った道、せやけど明かりがなくて困っとったとこやねん。希生、ナイスや」

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