善光寺、ロボになる⑥
「ごっ、ごしゃくえん?!」
声が裏返ってしまった。ハトの群れがびっくりして飛び立った。
巨大なおやきがカツラをかぶって着物を着て正座してる、なかなかブキミな人形が持ってるかんばんにこう書いてあったのだ。
『名物おやき 一つ五百円』
私にとっておやきは家で作るもので、買ったことなんてない。そんな私にだってわかる。高すぎだ。これじゃまるで
「ぼっ」
たくり、と言おうとした後ろから口をおさえつけられた。
「おやき税だよ」
ゼイ? おやきに税金?
「おやきに対して100パーセントの税金をかける。たとえば一つ100円のおやきに100円の税金をかけて200円にすれば100円の税収が長野市に入る。ここのおやきも本当は一つ250円、それに税金がかかって500円だ。たとえ倍の金を取られても、観光客や外国客ならはらうしねぇ? ここでしか食えねんだし」
「金は取れるところから取る、
私は生まれも育ちも長野市だ。けど、おやきに税金がかけられてるなんて話、聞いたことがない。
「ま、せっかくだし、おやき食わず」
食おうぜ、って言われてもマイト、あんたがお金出してくれるのか?
「希生、おめのおやき出せ」
「トレードですか?」
赤いエプロンをした女性店員さんが高い声で話しかけてきた。
「おやきに税金かけると地元衆《しょ》が困る、だからおやき同士を交換できることになったんだ。これがおやき
リュックの中を手で探る。一、二、三。
「四つ」
「なら三つ出せ。それで一人一個ずつだ」
「中身は何になさいます?」
「……あんこ」
下を向いたシチミがはずかしそうにつぶやく。
「こいつ、七味売りのくせにからいものがダメなんだよ」
その場で身をひるがえすシチミ。茶化したマイトのおしりをけ飛ばした。
「はい、どうぞ」
店員さんから手渡されたおやきは、四角いセイロから取り出したばかりでまだあたたかった。
紙袋につつまれたそれはころころとした丸型で、どこをとっても白い生地。焼き目がない。
焼いてないのに、おやきとは呼べなくない?
「善光寺のおやきは焼かねんだよ」
物知り顔で説明を始めるマイト。
「木造建築で一番こわいのは火事だ。焼く、なんて縁起でもねぇ。だから善光寺のおやきは蒸し器にかけるんだよ」
「そうなんや」
「今考えた」
またシチミのキックが決まる。
ばやんのおやきしか知らなかった私は、一口かむ。キャベツの汁と甘みとが口の中に広がっていった。
そうこうしてるとまた大きな門が。
それをくぐると、ようやく本堂が見えた。
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