善光寺、ロボになる⑤
「子どもが消える?!」
「やかましい」
屋台の目の前の信号を渡ると、そこはもう善光寺の境内だ。石畳の道の左右に参拝者が泊まる宿坊がずらりとならんでいる。私たち三人の他にたくさんの人がいて、いっせいに大声を上げたマイトのほうをふりむいた。
「……ウワサやけど、ここ数ヶ月、善光寺はんの境内で何人も子どもが消えとるらしい。七味買いに来たお客はんが言うてはったわ」
ってことは、誘拐? そんなニュース、テレビでもラジオでもやってない。
「それがけったいやねん。子どもがおらんくなって大さわぎになる前に帰ってくるねんて。それも、おんなし善光寺の境内の中でや」
「それって、ただの迷子しねぇ?」
マイトがぼりぼりと頭をかく。
「人の話は最後まで聞きいや。耳の穴から指つっこんで口ん中に七味ぶちまけるで」
どうもシチミの口ぶりはおだやかじゃない。
「なあ、希生はん」
ギクッとなる。手足がふるえ、冷や汗をかいた。
「は、はいっ」
「学校で先生に当てられたんやないんやから。もし希生はんが迷子になったら、どないする?」
「え、それは親を探したり、案内所に行ったり」
最後のほうは消え入りそうな声だった。
「せやろ。フツーやったらジタバタするもんや。それが見つかった子どもたちにどないしてたか聞いても、どこにおったかも、何をしとったかも、一切わからへんって口をそろえるんやて。そないおかしなことあるかい」
なるほど。たしかにちょっと怪しい。
「でもシチミ、なんでおめがそんなこと心配すんだ。子どもが見つかってんだからいいしねぇ?」
マイトの質問に、あんなぁ、と言ってから重いため息をつくシチミ。その白い顔が、ほんの少し赤らんだように見えた。
「しょっちゅう人さらいが出るような場所に、子どもや孫を行かせられへんやろ。子どもは来られへん場所にはそれを連れて来る大人も来んようになる。うちの商売あがったりやないかいっ」
そう言って先頭を切って歩くシチミ。その背中を見ながら、マイトが耳もとでささやく。
「口ではああ言ってるけどさ、本当はいなくなった子どもたちを心配してんだよ。子どもが消えた、って聞くと屋台を閉めて親といっしょに探すような、めんどくせえやつだよ」
右手に七つのお地蔵さん。六地蔵とそれより一回り大きなお地蔵さんが一体。その横を過ぎると大きな門にさしかかる。仁王門だ。二体の巨大な仁王様の間をくぐり抜けると、左右に数え切れないくらいのお店が。仲見世通りだ。
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