善光寺、ロボになる④
「シチミ!」
耳がキーンとなるマイトの大声。顔を上げた女の子が、あからさまにいやそうな顔をした。
色白の顔に薄化粧、髪を後ろできつくしばってるので目はつり上がってるけど、びっくりするくらい目鼻立ちの整った美少女だ。読モみたい。
「何しにきよった、商売のジャマや。しっしっ」
なぜか関西弁の美少女が、犬を追いはらうような手ぶりをする。
「まぁまぁ、困ってるって言うから助けにきてやったぜ、シチミ」
シチミ?
「本当は
「なんや、ガールフレンドかいな?」
あわてて首を横にふる。シチミと呼ばれた女の子がひひひっと笑う。息をすいながら笑う引き笑いだった。
「気にせんといて。フツーに
そう言うとシチミからふわっとした香りがただよった。もちろん香水なんかじゃなくて、薬味にも使われているミカンのにおいだ。
「善光寺の七味は原料のほとんどを地産地消してる。だけどミカンだけは雪国じゃならないから紀州和歌山から取り寄せてる。シチミはミカンといっしょに流れ着いた根っからの七味売りだ」
「よろしゅうに」
……私は、空気を読むのが苦手で。
その人が言ってることが本心なのかウソなのか、建前なのかおせじなのか、考えるだけで気が重たくなる。
でもそれって、相手に気をつかっているようで、本当はただ私が空気読めない人間だってバレるのがこわいだけなんだ。
大人たちが私にふりまくのはあいそ笑いばかり、そんなものでこの私はだまされない。だから私は笑わない。視線も合わせない。ただあいさつだけは返す。そんなくり返しがいやでいやで。
でも、シチミが投げかけてくれたのは営業スマイルなんかじゃない。太陽の光をさんさんあびて育ったくだものみたいな晴れやかな笑顔だ。私って人間がここに来たことを心から喜んでくれたことに対する笑顔にしか見えなかった。
「あんた、なんて言うん?」
それにくらべて、私のうす笑いは大きな石をひっくり返した、カビくさい作り笑い。鏡を見なくたってわかる、引きつったような顔だ。
「希生、です」
「あー、そないおじぎなんてせんでええて」
そう言ってシチミは薬味の棚に一つ一つふたをしてゆく。
「サンショウを切らしてもうた。店じまいや」
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