善光寺、ロボになる③
「さぁ、お立会い。
薬の味と書いて薬味と読む、その通り昔は薬だった。時代が進むにつれ薬から食べ物の風味づけにと役目が変わった。こちら善光寺は三大七味の産地として名高く、軽くてかさばらない七味は善光寺参りのお土産として親しまれてまいりました。
さぁ、七味の主役は何と言ってもこの真っ赤な唐がらし。唐とは昔の中国、その名の通り中国からやって来た。これに見えるは一本の幹から八つの身がつく
お次白いのはショウガ。七味とうがらしは全国に数あれど、ショウガが入るのはここ長野だけ。殺菌作用があるのが古くから知られて生肉をいためるのに使われたのもこのためだ。
磯の香り、と言いたいところだが信州長野県には海がない。イソの代わりにシソを入れましょう。赤いものは梅干しや柴づけをつけるのに用いられ、青いものは大葉と言ってソーメンの薬味になる。こちらに用意したのは赤ジソだ。
山しょうは小粒でひりりと辛い。うなぎのかば焼きの上にかかった緑色の粉が山しょうだ。唐がらしの辛さがすぐやってくる焼けるような辛さなら、こちらは後を引くしびれるような辛さ。善光寺さんから見て西の山で作られた山しょうが入ることで七味そのものに深みが出る。
こちら目にも鮮やかなオレンジ色。文字通りミカンの皮をかわかしてから細かくくだいて粉末にしたもの。漢方薬の世界ではチンピと呼ばれ重宝されてきた。七味に入れればさわやかな風味づけに一役買ってくれる。
白ごま黒ごま金ごま、数あるごまの中で用意したのは香りの強い黒ごま。皮が厚いのでそのまま食べても消化されないまま外に出てしまう。これがすりつぶすと良質の油になって七味の辛みをマイルドにしてくれる。
どんじりに控えしはこちらのオダネ。麻の種と書くが実際は麻の実だ。かむとほのかな甘味があり、他の薬味をまとめてまとまりのある味わいにしてくれるすぐれものだ。これら七つの薬味を取りそろえた七味とうがらし、軽くてかさばらない善光寺みやげにどうだいっ?!」
背の低い女の人だと思って近くに行ったら、私と同い年くらいの女の子だった。
その女の子が大人顔負けの口ぶりでまくし立てながら七味を調合して袋につめ、次々と売っていく。
あまりにもあざやかなので、この人は子どもっぽく見えるだけの大人の女性なのかも知れないと思い始めた。
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