善光寺、ロボになる②
ナガランドは三時で閉める。フルタイムで働いてるお母さんは迎えに来れないので帰りは路線バスで七二会まで帰るのだ。
なのでチャージ式のICカードがリュックサックにぶら下げてある。これさえあれば市内のバスはどれにでも乗れる。
いつも乗るのとは逆方向のバスの中は異世界ではなく異国だった。
右を見れば金髪の家族連れ、左を見ればヒジャブをかぶったお姉さんたち、私と同じ肌の色の人は中国語かハングルをまくし立てる。これがインバウンドってやつかな。
こういう時、スマホがあればひまつぶしになるのにな。けど私のはキッズケータイだ。
窓の外を見る。サクラの花はとっくに散って、山は新緑にそまっている。
そっか、もう五月なんだ。家とフリースクールの往復しかしてなかったから季節の移り変わりなんてどうでもよくなっていた。
「希生、次下りるぞ」
そう言うとマイトが降車ブザーを押した。
「終点なんだから押す必要ないじゃん」
「これ押さなかったらバス乗る意味ないしない?」
終点だから全部のお客さんがバスを降りる。彼らは長野市でしか使えない交通カードなんか持ってない。運転手さんが一人ずつ英語で運賃の説明をするのでなかなか降りれない。私はあきらめて、今度は近くの景色をながめた。
反対側の歩道に、ぽつんと屋台が一軒だけ出ている。お祭りでもないのにすごい人だかりだ。
『信州名物 七味とうがら🌶』って書いてある。し、の字がとうらしの絵になってるのが芸が細かい。
屋台の中にいるのは背の低い女の人。紺色の前かけをして、左手のさじですくった色とりどりの薬味を右手のボウルの中に移しながら何かまくし立てている。もちろんバスの中まで声はとどかない。
「降りず」
振り向くとあれだけいた乗客は一人もいない。置いてかれないようにあわてて立ち上がった。
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