善光寺、ロボになる①
暗かった。
夜だって家の光や街灯、車のライトなんかでどこかしら明るい。
けどここは本当にひとすじの光もない、本物の暗やみだった。
その中をこわごわと歩く。キュロットパンツの下からもぐりこむ風がおどろくほど冷たい。もし手を引いてくれなかったら、私はその場にしゃがみこんで動けなかったかも。
「ここだ」
闇の中の針の先ほどの穴が広がる。ひさしぶりに見た光のまぶしさに思わず目を閉じた。
次に目を開いた時、私が見た世界は。
やかましい人ごみ。むせ返るようなバスの排気ガス。仏像の周りの噴水。スタバにドンキ。
「なぁー……」
重たいため息をついてから。
「……ーんだ」
JR長野駅の善光寺口。ナガランドがあるのが同じ長野駅の東口だから、駅の向こう側に来ただけになる。
「ま、ま、行かず」
「行くって、どこ」
「善光寺」
またため息が出た。
長野市は善光寺を中心にさかえた門前町だ。人が来てくれなければ商売にならないから駅から善光寺まで大通り一本、迷いようがない。
歴史も古く、国宝にもなっている善光寺だけど、地元民にとっては初もうででもなきゃわざわざ行くような場所でもない。私も七五三以来だ。
「んなとこ行ってどーすんの」
「友だちがいてさ。ちょっと困ってるらしい」
うわ、いよいよめんどくさい。
モニュメントの時計は午後一時前。あと二時間でナガランドにもどらないとでかさわぎになる。いや、もしかしたらすでになってるかもしれない。
「たのむよ。な、な」
子どもみたいにせがむな。いや、あんたも私も子どもか。
「ほら、ちょうどバスが来た」
マイトが指さした先に、ロータリーに入ってくる善光寺大門行きと表示された白いバスが。
「バス? また魔法使ってよ」
「魔法にたよるな。自分の足と公共交通機関で行けるところは自力で行くんだよ」
それまでニタニタしていたマイトにしかられた。
「……二時半にはもどるからね」
あと一時間半、時計の針を気にしながらの、あまりにしょぼい冒険の幕開けだった。
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