第12話 レティシアと帰り道

 良い宴であった。

 始まる前にはソフィアに脱がされかかって大変な目にあったけど、お弁当は美味しいし、みんなは優しいし。率直に言って楽しかった。

 お酒も楽しかったんだけど、最後に飲んだサボテン酒が良くなかった。不味いんじゃないけど、相性が悪いんだろうね。

 アイちゃんもマリーもソフィアも、ちょっと酔いがひどい。少し醒ましてから帰ろうと、救護室で寝かせている。ちなみに救護室はゾンビだらけだった。介護のみなさんご苦労様。

 地が強い私も酔っている自覚はあるので、涼しい風に当たろうと土手を歩いている。

 まだまだ夜は始まったばかり、土手の桜は少しライトアップされて幻想的だ。みんな楽しそうだね。

 

 桜の列が切れる辺りまで歩いてきたらコツコツと音が聞こえるのに気が付いた。

 これは、土を掘る音だ。昔よく聞いていたから分かる。枯れちゃったブドウの木を、お父さんが掘って……。


 いつの間にか、木にもたれて寝てしまっていた。何だっけ?

 コツコツ

 そうだ掘っている音。

 相当酔っているのか狭くなった視界で音の出所を探る。

 おじさんが桜の木の根本の土を掘っていた。

 駄目だと思うんだけど。いくら酔っぱらっていてもやったらアカン事がある!ただでさえ酔っ払いは世間の心証悪いんだからさ!

「おじさん、駄目だよ穴掘っちゃ」

 おじさんは掘り返す手を止めて私の方をギョロリと見た。でもなんの興味もなさそうにまた穴を掘りだす。

 うわ~完全に変質者だ。

 こういう時の正解の対応は、公園の管理者を呼ぶとか警察に連絡するとかだ。でも私も酔っぱらいの端くれ、アルコールを正義のパワーに変えて悪を裁く!

「駄目だよ、桜さんが痛がってるよ。おじさん、めっ

 、めだよ~」

 おじさんは掘り返す手を止めて私の方をギョロリと見た。

「アンタ……酔ってるのか」

 って当たり前だろ?これが酔ってるように見えないなんて、あんたも相当飲んでるな。

「悪いことは言わない。早く帰って、今夜のことは忘れるんだ」

 それきりおじさんは興味なさそうにまた穴を掘りだす。

 これ恫喝ってやつよ。犯罪者確定。私はさらなる余罪を引き出すため、カマをかけてやることにした。

「……桜の木の根本に、死体を埋めるって聞いたことある」

 おじさんは掘り返す手を止めて私の方をギョロリと見た。

「本当か?その話どこで聞いた……」

 あ、ヤバい?これ、大当たりだ!埋められちゃう!

「誰か勝手に埋めてねえだろうな……桜じゃないってのに……」

 また穴を掘り出す。

「やたらと分厚く土が被ってると思ったら、そう言うことか?」

 カチッ

 何か硬い物がスコップに当たった。状況的に人骨か。

「おー良かった?骨は出なかった。お嬢ちゃん、ビビらせてくれるなよ。もう時間無いからいくけどよ、ちゃんと忘れろよ」

 おじさんは掘り当てた金属製?の床の一部を、まるでタッチパネルを操作するように触る。すると人が通れるくらいの隙間がスライドして開いていき、中は計器のように点滅する光であふれていて……。

 私が覚えているのはそこまで。

 酔いがマシになったマリー達が捜しに来てくれて、私は目を覚ました。もう空が白み始めている。東は向こうか。

 おじさんが穴を掘っていた辺りには何もなく……いや、まるで木が根こそぎ持っていかれたような窪みがあった。

 おじさんはスコップを忘れていった。

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