第13話 レティシアと野外調査
「レティシア調査隊は、ついにトレジエム第三遺跡に潜入を果たした。途中でソフィア隊員が非業の死を遂げた。彼女が死の間際まで気にかけていたこの遺跡の謎が果たしてわれわれに解くことが出来るのだろうか。そして次の犠牲者は誰なのか……」
マリーがいてくれてたら、レティシアが犠牲になっておしまいねって言ってくれるだろう。でも彼女はもういない。アイちゃんならば、レティシアちゃんってどこでそんなの覚えてくるの?って笑うだろう。ソフィアだったら……。
もうみんないないんだ。
私は涙が流れるのを止めることが出来なかった。
自由大学のフェルディナンド教室は野外活動に来ていた。名目は発掘調査の手伝い。
しかし、ほとんどが遺跡に興味がない学生。気の利いたのが数人いればいいほうだ。講師も自分の楽しみ優先だった。
前日に遺跡近くのベースキャンプで一泊、今日は朝から遺跡の見学となっていた。
そんな前日の夜、隊員達の緊張感とは正反対の弛緩した一幕を紹介しよう。
「私、皆で宿にお泊まりって初めてよ」
薄い金髪の非常に美しい女性が、やや興奮した様子で宣言してくる。近寄りがたいほどの美貌なのだが、くるくる変わる表情や、良くも悪くも人間らしい明るい性格が彼女を愛くるしく感じさせている。
食事と簡単なシャワーを終え、同世代の十人ほどの女性部屋だ。美女、レティシアは友人の膝枕で髪を撫でられながら可愛いことを言うものだから、同部屋のメンバーはほっこりした。
「ホントに?」
レティシアに膝を貸し出しているソフィアは、このホワイトブロンドの髪が好きだった。サラサラの手触りと色の変化を楽しむ。
「休みの日は家の手伝いだったし、そもそも年の近い子供って親戚の……イタタタ」
レティシアはあまり過去を話さない。家族のことを話すとき頭痛がするようで、そう言うときは露骨に話題を変えてしまう。本人はおかしいとは思っていないようだ。
「いいよレティシア。無理に話さなくて」
「え?どうしたの……なんの話だっけ」
「ジョーディが禁断のおやつタイムに入らないかって話」
「悪魔だ!悪魔は夜に囁くのよ!私、スルメ持ってきたわ!食べましょう!」
レティシアはこのように皆に可愛がられているのだ。
そして朝、遺跡に一歩踏み出したときに事件は起こった。
つい最近遺跡調査に赴いた冒険者達やその後の調査隊が遺跡への突入口として何度も通ってもっとも調べられていた、とある中庭の塔。自由大学の一行もそこから遺跡に入るのだ。
延べにして数百人は通った石畳の通路。トラップが仕込まれていればすでに作動した後であろうし、報告もなかった、安全な通路のほぼ中央。
レティシアがある石のブロックを踏んだとき、条件が揃い、ギミックが作動した。
後ろをついて行っていた者が一番よく見えただろう。路面にいきなり穴があいて、レティシアを落とすとは穴は閉じた。
「あれ?レティシアどこ?」
「キャーッ」
というカンジで誰かが事の顛末を語ってくれているはず。
泣くのも飽きたので、そろそろ動こうと思う。
私が落ちてきたはずの、上の方は見た所ただの岩の天井。隙間から光でも漏れてるかなと思ったけど周りが明るくてよく見えない。切れ目とかはないようには見える。
前も後ろも岩をくり抜いた通路になっていて、どっち向いて落ちたかなんてとっくに分からなくなっていた。
落ちた衝撃はなかったと思う。さすがに三メートルくらいある高さを落ちれば、イタタタ……くらいは言えたはずだから。
そして床には細い溝が二本、ずっと奥まで掘られていて……何というかな?線路みたいだ。今にも奥から暴走トロッコがやってきそうな、危険な雰囲気。
一通り泣いたから割と冷静だ。周囲の写真を撮っておく。フェルディナンドポイントがほしい友人に売りつければかなりの額になるかも。自撮りもした。ほら、大きさ比較必要でしょ。ピースサインが出てしまうのは人の本能だよ。
ここにいても仕方ないので歩いてみる。
高精度のレティシアセンターでわずかに高くなっている方に向かう。
実は明るいのは私の周りだけで、前後十メートルくらい?私が移動すると明るい場所も移動する。後ろがどんどん暗くなっていくのは……怖い。
「怖いなあ……。どこまで続いているのかなあ……」
謎すぎる。誰が作ったのか?古代文明人。
どうして明るいのか?謎の古代技術。
どうして綺麗なの?掃除されているから。
……誰が掃除してるの?古代文明人が今も?
「うわああああ!」
私は怖くなって、泣きながら走った。
身長3メートルで緑色で、目が一つで腕が四本の生き物には勝てない!じゃなくて怖い!
「戻りたいよ、戻してよ!」
次の一歩の地面の感触がなかった。あ、落ちる。
一瞬世界の雰囲気が変わると、次の瞬間には明るい、遺跡の回廊!?
「イタタタ……」
着地の一歩の高さが微妙に違ったので、勢いが付いていた私は見事に転けて地面にすり下ろされた。痛い。
「なんの音~?あ、レティシアちゃん!」
バタバタと何人かが駆けてくる足音が聞こえる。
「戻ってこれた……」
安心で、だから私が気を失ったとしても誰も責めはしないだろう。
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