第9話 レティシアとボタンの青年
発端は昨日の自由大学。
私がまず驚いたのは、このクラスに先生狙い以外の人が私の他にもいたこと。
まあ、男性もちらほらいたし、そういう人なんだと思っていたのだ。愛の形は自由だからね。
だから彼、ジム君が私とお付き合いしたいと言ってきたのには、本当に驚いたのだ。
今もソフィアやマリーにめっちゃガン付けられてビビってる、ジム君が言うには、
「エベールさん。最初は……」
おっと失礼。エベールは私の姓だ。この星にブドウの苗を持ち込んだ、由緒正しい血筋の、分家の養子の分家の従兄弟くらい?あの辺りは皆エベールだったからなぁ。戻ろう。
「最初は一目惚れだよ、君は本当に美しいから」
ソフィアよ、それは乙女の顔ではないぞ……。
「この半年間ずっと君を見てきた。そして外面だけでなく内面からの君の美しさに気付いた」
ソフィア、ジュリ、ケイト……。ねえマリー、あなたも睨んでないであの子達の顔、撮っておいてよ。
「俺と付き合って下さい!」
マリーが講義机を蹴った!
私なら一秒で謝るこのレディース集団の中、ジム君はビビりながらも言い切った。コヤツ、名のある武人やもしれぬ。
「ジム君、私は自分が少し世間からズレているのは気付いてるの。だけどもあなたと付き合ってそれを変える気は全くない」
私を構成する三つのこと。徘徊・グルメ・美人。彼はまだ最後の項目しか知らない。それを知ってなお私を好きだというのなら、私は彼の気持ちを受けよう。
「ジム君、私とデートしなさい!内容は私が決めるわ。普段の私の行動に付き合って、理解して。その後のことはそれからよ」
この場の主導権は私が握った。有無は言わせない、なんなら呼吸も許さない!
「明日、朝の10時にグリーンヒルズ下西口駅に集合よ。動きやすい服装で来るのよ。じゃあね、ご機嫌よう」
私は令嬢を気取って講義室を出た。ジム君の答えは聞かない。
ぞろぞろと取り巻き連中が後から付いてくる。皆私の美貌と権力のお裾分けがほしいだけの連中。対等な生き物ではない。そうよ豚……違うあれは可愛い。もっとこうみじめな動物……。モフモフは基本尊いし、小さいのは可愛い。カニとかも好きよ。そうそう私、ヒトデ苦手だ。
「この、星の成り損ないどもめ!ヒトデよ、天に還れ!」
痛!
「あんたが帰ってきなさい」
マリーがぶった!
「レティシア。色々言いたいことはあるけど、ジムって誰よ?」
マリーチョップの痛みががじわじわ来る。頭叩かれて記憶飛んだかな。叩いた方が忘れてるって何よ。だってジム君は、
「さっき私に告白してきた人でしょ」
「あいつジムじゃないよ。何でジム?」
「え?だったら誰よ」
ホント誰なのあの人?明日分かるけど。
「でもう一つ。どうしてグリーンヒルズ?」
「私、ジムと言えば機関車しか思いつかないの!そんで近くの鉄道駅ってグリーンヒルズだよ」
実は海賊もふと頭に浮かんだけど、知らない誰かの仕事のような気がして、それは言わなかった。
「さすがレティシア、考えが常人では無い」
「しかも改める気が全くない」
「惚れるわ~」
なんだこいつら。
「お祖母ちゃんが言ってた。バカは3人集まれば3バカになると……ホントだったんだ」
とまあ後はいつもの大騒ぎだ。
駅に着くと、ジム君が既に来ていた。
あ、ステキ。アレよ、アレが出来るわ。
「ジム君おはよう。ゴメンね待たせちゃった?」
頂き物のワンピース、少しのメイク、あざといツバ広帽子、トドメはレティシアスマイルだ!
「あ……おはよう、エベールさん。待ってないよ、俺も今来たところだから」
なかなか高得点を出しよるな。しかしこれは初級も初級。回答を暗記していればルート選択を間違える所じゃない。
「昨日は変なノリでごめんなさい。私も滅多にないシチュエーションで焦ってたみたい」
私はテヘペロのモーションを発動した。
そう、ノリで駅を指定したけど実はノープラン。これが秋だったら、超電磁軌道を前宇宙時代のSLが通るという馬鹿げたイベントがあるのだけど。ジムにはSLでしょう?
「今日は君の貴重な時間をもらったわけだけど、何も考えていないの。だから私のいつも通りブラブラして、面白そうなお店があれば入る。夕方には解放するから我慢してね。ん?どうしたジム君」
さっきから答えのないジム君は真っ赤になってプルプルしている。さてはコヤツ朝から飲んでるな?ちょっとペース早かったら、なんかプルプルするよね。
「女神……」
「女神じゃないよ、レティシアですよ~?」
目の焦点が合ってないジム君の顔をのぞき込んだ。私に合わせようとしてアルコールを摂取してのプルプルだとしたら、さすがに心配だもの。
「うわっ」
え、そんなにビックリしないでよ。
「ゴメン!俺にはまだ早かったんだ~!」
おっと何処へ行くジムく~ん!
グルメも徘徊もまだなんだけど!?
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