第8話 レティシアと冬の終わり

「お嬢さん、こんな所で寝てたら、襲っちゃうよ」

 そう語りかけられて、目を覚ます。なんか良い夢見てたのに。

「……ソフィア」

「襲うけどさ!」

「ヤメロ~!」

 季節は冬の終わり。春と名乗るにはまだ早いけど。

 家の近くの川の土手で日向ぼっこしてたら、寝てしまったのだ。土がね、温かいのさ。

「起きた?」

「マリー、姫はまだ微睡みの中だ」

「レティシア、こんな所で寝ないの。危ないよ。虫も付くし」

 虫か、虫だらけはさすがに嫌ね……ソフィアに引っ張られて上半身を起こす。

「あ~あ、服も髪も土だらけ。何やってんのさ全く」

「我は欲望に忠実な故に……」

「ほら、家戻って支度するよ」

「今日何かあった?」

「春祭りじゃん」

「レティシア行ったこと無かったでしょ」

 去年の春は何してたかな。

「春祭りって何があるの?」

「わかんない」

「はぁ?」

 バカソフィ!この私の眠りを妨げて、わかんないだと?首を傾げるんじゃない、可愛いだろうが!

「私もお祭りの目的は知らないけど、屋台がたくさん出るわ」

「私、屋台のご飯大好きなの!」

「だろうね」

「だから行くよ!レティシア。とびきり可愛い恰好して出陣よ!」


 この街で一番大きな催事場と言えば、競技場だ。市民広場もあるけれど、あっちはどちらかというとオシャレな事をやるところで、こっちは基本騒ぐところだ。春祭りの運営は多分クレイジーな方々の集まりだ。だって、陸上トラックにも容赦なく杭を打って区画分けしてるもの。ほら、私以外にも驚いてる人結構いるよ。

 まずはドリンクを購入してから、競技場のスタンドに適当な席を確保した。ここを基地に、私たちは三方に散る。任務はただ一つ、美味しそうなものを皆の分買い込んでくることだ!カブっちゃったらそれはそれで面白いじゃない?


 もっと肉々しいフェスタかと思っていたら、フルーツが多い。私、ブドウ以外ならイチゴが大好きである。……イチゴが好きなの!

 とりあえず、酒の友としてヒツジのホルモンの詰め物と、背肉の包み焼き。まるまるイチゴをダースで。イチゴカクテルをジョッキで。

 結構な量を買い込んでも、驚異のバランスでスタンドまで持って行く。まだ二人は帰ってきていないけど、お肉は熱いうちに、ビールは冷たいうちに!


「また肉ばっかり買い込んで……」

「ほら、せめてバゲットに挟んだりさ」

「ほはへり~」

 二人も空いた座席にどんどん置いていく。

 ビールで口一杯の肉を飲み込むと、改めて皆の戦利品を確認する。

 ラム肉とポテトのパイ、チェリーのパイ。パイ尽くしはマリーだ。おなかが空いてるらしい。

 ソフィアは、

「みてみて、ラーメンよ」

 スープの香りが、魚介でも豚骨でもない……

「山羊だって!」

「珍し~ってみんな肉じゃん!さあ頂こうよ」


 普段から健康的に暮らしている為か、結構な量に思えた料理の数々は以外とすんなり食べきった。デザートにパイとイチゴを食べているところだ。

「私ね……」

「お、レティシアまたデレるか?」

「私、イチゴ大好きみたいなの」

「「へえ……」」

 二人ともあまり興味ない?

「ところで、聞くのためらってたんだけど、アイちゃんは?」

 いつも一緒ではないけれど、こういうときは三人一緒のイメージがある。

「アイさん?……誰だっけ」

「あまり聞かないね。猫か何かかな?」

 ああ、あれか彼氏とか。

「ごめん、私の間違いだったよ。記憶のバグ、存在しないデータでした」

「だろ?」

 ソフィアに笑顔が戻った。

「レティシアは疲れてるの」

 マリーが私の頭をポテンと自分の太腿に倒す。

 ええ!?マリーの膝枕!アンド頭ナデナデ!至福だ~。でも病んでるな、この子達。

 

 いつの間にか日は傾き、もうじき夕方という時間。

「それじゃあ、私の家でのんびり飲み直そうか」

「そうね、晩ご飯は軽いおつまみで良いでしょ」

 ゴミを片づけて、夜の部のためにまた盛り上がり始めた屋台でつまみを買い付ける。

「おー、マリーじゃん」

「レティシアちゃんもいる!なにめっちゃ可愛いんですけど!」

 学校の子達も来ていたみたいだ。

「オッス。私たち今帰るとこ」

 ノリが良い状態の相手はソフィアが務めるのだ。

「私達も帰るところ。どっかで飲み直そうかってなってるんだけど」

「だったら……」

 ソフィアの視線に私は肯く。

「今から私たちもレティシアの家で延長戦するんだ。一緒にくる?」

「えっ行きたい!いいのレティシアちゃん!」

「いいよ~ただし、つまみと酒は自分で持ってきな!」

『了解であります!』

 ご安心を。我が家は防音防震レベル3なので。


 その後、思いの外参加者は増えていったけど。

 楽しかった。朝日で燃えないゾンビが大量に発生したけど。

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