第7話 レティシアとドラゴンスレイヤー

「君達はドラゴンを知っているかい?」

 これはだめだ。今日はまともな講義にはならないみたいね。ただでさえこの講師がまともな星団史を教える確率は一割程度なのだ。

「マリー、私抜けるね」

「ん。ご飯は?」

「今日はよそで食べるよ」

「そっか。じゃあまたね」

 姿勢を低くして、みんなの邪魔にならないように講義室を出る。誰だケツを触ったのは!

 予定より早い時間に思わずフリーとなった。サントルは今日も晴れて絶好の徘徊日和。

「ドラゴンか」

 私にはドラゴンと言われて思い出すことがある。このサントルの街にドラゴンがいるのだ。

 自由大学から結構歩いたところに丘陵地がある。そこは住宅街になっているのだ。人呼んで「魔境グリーンヒルズ」。

 家族をすべてマフィアに殺された街の設計者が悪魔を呼び出すために描いた大魔法陣。作動すればその上に住む数千人の住民の魂が贄となる、らしい。設計者は既に亡くなっているから、この魔法陣が復讐のために使われることはもうない。

 などと言われるほど入り組んだ街並み。真上から見るとすごく整った区画分けをされているのだけれど、高低差を無視して道を敷設した結果、接続や地番が大変なことになっている。これでなんの恨みも呪いも抱かず設計したと言うのならば、気が触れているかとんでもなく性悪か、まともではあるまい。

 さあ、ドラゴンに会いに行こう。

 グリーンヒルズのふもとで水筒にドリンクを詰めてもらうと、端末の地図アプリを設定してスタート。

 街の端にある長い階段を登り、中腹へ。角を右に曲がって、一つだけ飛び出ている家の周りを迂回してしばらくジグザグに階段があるから降りていく。また上って、しばらく真っ直ぐ。

 つまり、街路を利用した魔法陣というわけ。

 必要な魔力を持ったじゅちゅ……術士が正しい手順で魔法陣に魔力を注ぐと、封じられたドラゴンが復活するんだ。幸い私には魔力はないから、今日もなにも起こることはない。でももし、その声くらいは聞くことができたら面白いかな。

 角仝で風を感じ、大地を感じる。魔力の残滓を読み取り、正しい方向に曲がる。少しでも間違えるとため込んだ魔力は霧散するのだ。

 スタート地点から街の反対側に出た。ここで折り返し。隣町に接続する道も数本あるが、魔法陣はこの街で完結しているため、そちらに行くと即アウトだ。ここは行政が看板を立ててくれているので、唯一気が休まるところでもある。

「今日は、暖かいから、チョットしんどいな……」

 いくら私が体力バカとはいえ、斜面の上り下りが頻繁にあると辛いのだ。

 さあ後半分、集中して行こう。

 ドリンクで魔力と水分を補給。まじゅちゅ……魔術師も体力勝負だ!


 スタート地点である「観測者」の小屋には迷うことなく到着した。魔力回路が完成したのを観測者が確認すると、後は魔力を流すだけだ。

 目覚めよドラゴン!

「見せてみな……」

 私は端末を観測者に渡す。観測者は慣れた手付きで判別の魔道具と私の端末を繋いで操作する。

「失敗だな」

「そんな!あんなに頑張ったのに」

「見るが良い、AI診断による一致度は30パーセント。単なるフタコブラクダじゃ」

「掠りもしないじゃん!」

 つまりはそういう遊び。

 自分が歩いた軌跡がどんな形になっているか。ここではドラゴンっぽければ良いのだ。

「レティシアちゃん、酒飲みながらじゃ感覚狂うんだと思うぜ」

「お酒じゃなくて魔力ポーションね!次こそ見ていなさい!私が必ず封印をといてみせる!」

「人の子よ何度でも来るが良い。もしやお前になら……」

「おじさん、今の良い!じゃまた来るね~」

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