第6話 レティシアとブランデーケーキ
ソフィアがフェルディナンドの準備室からお盆を抱えて出てきた。今日のお茶当番だそうだ。もちろん有志による非公認非営利団体。今日も講義室には用もないのに団体員が数名常駐していた。
「お客さん、船長さんだった」
船長さんはたまにやってくるお客さんで、たしか宇宙英雄の冒険者らしい?会ったことはないけど。
「なんか先生に怒られてた」
「あの人いっつも怒られてるよね」
数名がケラケラ笑う。馬鹿にしているというよりも好意的な笑いだけど。困った顔が可愛いとか、先生の日頃とちがう熱量がイイとか、カップリングとか。最後のは訳わかんないが。彼女らにとって船長さんはおなじみの客なのだろう。
フェルディナンドは怒っているというが、授業では結構ほめている記憶がある。呆れながらも楽しんでいるというか。そう、あれ。ツンデレとかいうやつだ、きっと。
「じゃ、行くね」
我が師が属性持ちと判明したところで、講義室を出た。みんなとともにバイバーイするのはとても女子らしくて良い。
最初のうちはこの美貌でフェルディナンド狙いの本命かと勘違いされて皆よそよそしかったけれど、最近はそんなこともない。むしろ可愛がられてる。レティシアにはフェルディナンドよりうまい飯と酒などと思われているのを聞いてちょっと照れくさかったけど。
というわけで、今日は大学の図書館に来ています。お料理の本を借りるのです。最近気づけば「おっちゃんメニュー」ばかりだったので、女の子らしくお酒に合うスゥイーツを研究しようと思ったわけだ。残念ながらそんな講義はないので、自主研究となる。
聞くところによると、星都でお菓子を個人的に作るようになったのは割と最近、私たちの母親世代くらいかららしい。この星も少しは豊かになっていってるのだなぁ。
さて、料理全般そつなくこなすが、お菓子造りはプロではない私。無理せず初心者向けの料理本を探す。
「フム。ブランデーケーキか。良いんじゃない?」
フォークで押すとスポンジ生地から溢れ出るブランデー。お行儀悪く大きな固まりを口に入れると、鼻の奥にまで充満する香り。私が求めているのはそういうシンプルかつ贅沢なスイーツ。
すっかりブランデーの口になった私は、帰りにいつもの食品店に寄る。
「タマゴ、生クリーム……小麦粉はあったかな?後はえ~っと……」
レーズンにはこだわりたい。なんせブドウはプロなので。あ、チョコチップで苦味を演出。ブランデー?ラム?あ!ラムレーズン!
一通りカゴに投入してレジを通る。
小麦粉とかチョコとかいかにも「手作りスイーツ始めます」みたいな買い物かごの中身を見て、レジ回しのおばさまは、あらまあって顔してにやりと微笑んで下さいましたわ。なんだこの敗北感、いつもお酒ばっかり買うけどさ?私、普通に作れるからね?
そして夕方。
レーズンをつまみにブランデーを飲む美女がキッチンのテーブルで発見された。名前はレティシアという。まあ私だけど。
ケーキ作りはまた今度。
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