第14話 決闘前日

 父の寝室に着いたとき、そこにはもうヒーロスとオーヒトスがいた。

「あら、妾の子ごときが私を待たせるとはいい度胸でざますね。謝罪の一つでもあるべきではないですか?」

 俺は雌豚を無視して、父の姿を確認に行く。

 父の顔は安らかなものであった。多分、満足して逝ったのであろう。

「無視ざますか?私に何か言うことが「黙ってろ雌豚。執事長、話とは何だ?」なっ!?」

 ヒーロスが怒りと羞恥で顔を赤くしている。なんかこの光景、前も見た気がするな。デジャヴというやつか。


「今回皆様をお集めしたのは他でもございません。アステニア様がお亡くなりにならましたので、アステニア様の遺言に従い、この場で遺言状を開封いたします」

 この場で遺言状を開封か。俺は聞いてないのであの後に考えたのだろう。

 だがその前に、

「ほらイリア、そろそろ起きろ」

 腕の中のイリアを起こす。すやすやと眠っているところを起こすのは気が引けたが、しょうがない。

「う~ん。お兄ちゃん?」

「ほら、目を覚ませ」

 目がぱっちりと明く。

「おはよう、お兄ちゃん!」

「ああ、おはよう」

 今この部屋にいるメイドさんたちがニコニコしながらイリアを見ている。

 分かる、可愛いよな。

「ふ、フン。そんな寝ている子を連れて何しに来たんでざますか?次の当主はオーヒオスに決まっているんでざますよ。オーッホッホッホ」

 本気で言ってそうなところに驚きだ。自分の子に相当な自信があるのか。あるいは自分の子を自分が贅沢をするための道具としてしか考えてないのか。

「それでは遺言状の内容を読み上げます。今回は王都の報告人の方に来てもらっています。それでは読みます。遺言状、第18代目当主は3男イリア・フランゼルとする。家系の者の処遇を決める権利は、すべてをイリア・フランゼルが有する。以上です」

 数秒間、部屋の中に沈黙が下りた。

 

 最初に口を開いたのは、当然の如くヒーロスだ。

「なぜですの!?次期当主はオーヒオスのはずではありませんでしたの?ねえ、何か言ったらどうですの?」

 ヒーロスは烈火のごとく怒りながら執事長の襟首をつかんで問い詰めている。

「それでは、当主様にご確認ください。あなたが当主様に合えればの話ですが」

 痛快な皮肉だ。この執事長、タフだな。

 それよりこの王都からの報告人とやら、大丈夫かな。さっき発表を聞いた瞬間、舌打ちしてたんだよな。多分オーヒオスが当主になったらこの領地を奪ってやろうとしていた奴の回し者とかなのだろう。何故執事長も屋敷に挙げたのだろうか。あの執事長が気付かないわけがないのに。

 あ、オーヒオスに耳打ちしてる。ほとんど全員がヒーロスと執事長のいざこざを見ている間にとか思ったのだろう。何を唆したんだか。

「おい執事長。本当にこんなやつに当主の役割が務まるのか?」

「ですからそれでしたら「そいつを俺自身が確かめてやろう」・・・?」

 報告人とやらを目を動かすだけで見たので多分気が付いたのだろう。

 その時、オーヒオスがこっちを向く。

「イリア、俺と決闘だ」

 ふふふ、よしよし。計画通りだな。

「お、お兄ちゃん。どうしよう」

 イリアは5歳ながら政務の手伝いをしていた天才だ。負けることはないな。

「やればいいんじゃないか?勝つのはお前だろうし」

「なんだと!?妾の子ごときが、いいだろう身の程を教えてやろう。僕が勝った暁には「ほらほら黙れ豚の子。そんなことより、決闘の方式はどうする」ふんっ!」

 ほう、豚のこと言われてもキレないのか。少しは成長したようだな。

 執事長は俺の問いかけにこたえてくれた。

「それでは、三本勝負といきましょう。一つ目の戦いは、政務の仕事です。一日の間、同じ仕事を二人にしてもらいます。この勝負は私がよく出来ていると判断したほうを勝者とします」

 この執事長。宰相を代々輩出している名家の生まれである。彼は末っ子ながら天才といわれた長男と同じぐらい優秀だったらしい。宰相は生まれの順で長男となったが、失意のうちにいるところを父が雇ったらしい。それ以来、ずっとここで働いてくれているのである。その執事長が見るのだ。相当駄目だしされるだろう。

「お前が公平に判定するという保証がどこにある!」

「私はアステニア様よりどちらに加担してはいけないとの命令を受けております」

 俺が帰ってから話したのだろう。

「そ、そうか。ならいい。二本目はどうするのだ」

「二本目は魔物退治にしようかと」

「ま、魔物!?俺に危険を冒せというのか?」

「いえ、冒険者を雇っていただきます。もちろん自身が参加されても問題ございません。冒険者との交渉の腕なども判断材料になります。片チーム五人までの参加とします。ちなみに領軍もアステニア様の命令で参加できません」

「私兵はどうなの参加

「まあ、いいでしょう」

 冒険者か、オーヒオスは相性が悪そうだな。こっちはイリアと俺だから大丈夫だな。俺も参加するし。となると、あと4人。冒険者ギルドで探すとするか。

「三本目は何だ」

「住民投票です。住民にどちらのほうが領主としてふさわしいか判断してもらいます。どちらがいいかを領軍の兵士たちに二人一組で一軒ずつ家を回ってもらい、票が多かったほうを勝者とします。勝負の内容はこれでよろしいでしょうか」

 見事にイリアの勝てそうな勝負が並んでいる。

「ああ、これでいいだろう」

「いいか?イリア」

「うん。大丈夫」

「かしこまりました。勝負は明日から始めます。冒険者に話を持ち掛けるのは、今日の内からどうぞ。明日は政務勝負となります。それではこれで解散といたします。お集まりいただきありがとうございました」

 執事長が言い終わると、ヒーロスとオーヒトスが不機嫌そうに部屋から出ていった。

オーヒオスは俺とすれ違うと、

「勝負が終わったら覚悟しておけよ」と言い残して部屋から出ていった。

 王都から来た報告人もメイドに案内されて出ていった。

 これは、面白いことになりそうだ。


「お兄ちゃん、僕、勝てるかな?」

「ああ、大丈夫だ。絶対勝てるよ」

「その自信はどこから来るのですか?レイ様」

 執事長か。雑談は贔屓にならないのだろう。

「イリアだぞ?一本目の勝負はもらったものだ。さらに二本目の勝負には俺も参加する。俺たちの勝ちは確定だ。三本目の勝負だが、オーヒオスの住民からの評価は最悪だ。そんな勝負なのだ、これは。勝利の女神は俺たちに微笑むしかない」

「ここまで並べられると、オーヒオス様が勝てる道が見えてきませんね」

 そうだろう。 しかも彼はイリアのすごさは知っているだろうし、俺の強さもその目で見ている。その辺もあるだろう。

「まあ、俺たちの勝利を楽しみにしておくんだな」

 そう執事長に言って俺は部屋から出た。

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