第13話 進展

 私は今、とんでもないものを目撃してしまった。

 あのイポーレスが横一直線に吹き飛ばされていったのだ。

 普通のCランクパーティーなら単独で倒すことが出来るであろうイポーレスがだ。

 しかも、イポーレスは身長2メートルあり、フルプレートアーマーも身に着けていた。その重量と言ったら130㎏はあるだろう。

 レイ様はそんなイポーレスを、模擬戦用の剣を折ることもなく吹き飛ばしてしまったのだ。

 確かに夕食の時に見た時から強いとはわかっていたがこれほどとは。

 レイ様は、社交界の場でも噂になっていた。その噂は現実とは真逆の評価なのだが。

 名門フランゼル家に生まれた顔だけの無能。それがレイ様に対する貴族間の評価だ。

 この光景を見た後に同じことがいえるか?

 無理に決まっている。イポーレスは騎士団長の地位についている者達の中でも上から数えたほうが早いほどには強いだろう。そのイポーレスの攻撃をきれいにかわして、横一直線に吹き飛ばせるほどの方が無能なわけがない。

「審判、これはどうするの?」

 レイ様の言葉に我に返る。イポーレスを見れば、立ち上がってはいるが、生まれたばかりの仔馬のように全身が震えている。この状態での戦闘継続は無理だろう。

「そこまで、勝者レイ様」




 言いがかりによる試合が終わった。

「お前さん強いな。いい試合だったぜ」

 俺に吹っ飛ばされたおっさんが握手を求めてくる。

 試合をした後は、相手を認めやすくなるものだ。

「ああ、いい試合だった」

 俺は手を握り返しながら言った。

 だがあの言いがかりは何だったのだろう。おっさんは俺が細いために弱いと思っていたのだろうか。

「細すぎて心配になったが、その強さなら冒険者としても十分やっていけそうだな」

 どうやら俺の心配をしてくれていたようだ。めちゃくちゃいい人やん。

「ははは、そりゃそうでしょうね。冒険者登録をした時も絡まれましたから」

「そりゃそうだろうな。弱そうなやつがそんな上物な服を着ていたらいいカモだと思うだろうよ」

 上物の服?確かに汚れない服ではあるが、魔法防御も何も付与されていないぞ?

「レ、レイ様。その服はスパニ繊維が使われていますか?」

 ここで執事長が口をはさんできた。

「ん?ああ、確かにスパニ繊維で出来ているが」

「やはり!あの幻ともいわれるスパニ繊維!」

「なんだ?この服の素材は珍しいのか?」

「珍しいどころの話ではないですよ!王族すら見られることがほとんどないと言われているもので、魔力密度の高い秘境でしか生えることがないと言われるものですよ」

 正確にはもう少し細かい条件があるのだが、まあいいだろう。

「それで、レイの名前を遺言状から消しても良いと思うか?」

「アステニア様。私は問題無いと思います」

「俺もいいと思うぜ」

「ではユペイロ。消しておきなさい」

「かしこまりました、アステニア様」

 これで、俺が次期当主になることはなくなったわけだ。

「それと私は今夜死ぬ」

「「「は?」」」

 父が変なことを言い出したぞ。


 あの後、30分ほどしゃべった後に俺たちは解散となった。

 父の言いたいことも納得できた。

 確かにあの人は残りの寿命も短いだろう。

 まあ、後は天命に任せるとしよう。


 こうして俺は部屋に帰ってきた。

 ベットには、イリアがアヌと一緒に寝ている。

「アヌもイリアのことが気に入ったようだな」

『ええ。あの子が可愛いんでしょ』

 イシュタルが返事をしてくれる。彼女は天蓋の淵の柱から俺の肩へと移動してきた。

 俺はそのまま、魔法を使う。俺は固有魔法〈創世〉のおかげで想像しただけで魔法を使うことが出来る。今回は体をきれいにする魔法だ。全身に魔法陣が展開され、それが消えた後は、体がきれいになっていた。

『何の話をしてきたの?』

「これからのことだよ」

『どんなふうになりそう?』

 俺はイシュタルに父たちと話してきたことを伝えた。

『そう。そんないい感じになりそうじゃない』

「だろ?天運任せのところもあったりはするが、まあ大丈夫だろう」

 俺たちの間に沈黙が下りる。

 イシュタルが口を開いた。それには悲壮感が漂っている。

『ねえレイ様、これが終わったら彼女を捜しに行くの?』

 多分イシュタルはその言葉の後にこう、繋げたのだろう。

(そして元の世界に帰るの?弟君達をここに残して)

 確かにイリアは可愛い。だが、これを変えることはない。

「ああ、帰るよ。それが俺が異世界に呼ばれ、この世界で戦い続けた理由だから」

『そう』

 俺はそのままベットに寝っ転がり、眠りへと落ちていったのだ。


 朝、起きると体が重い。

 周りを見回すと右手はイリアにつかまれていて、腹の上にはイシュタルが乗ってる。

 アヌは顔のすぐ右にいた。

 俺は皆を起こさないようにゆっくりと上半身を起こす。

「うー、お兄ちゃん?」

 5分ぐらいすると、イリアがまず目を覚ました。

「おはようイリア」

「おはよう!」

 イリアの笑顔がまぶしい。

 その時、ドアがノックもなしに開け放たれた。

「大変です!アステニア様が亡くなられていました。すぐにアステニア様の寝室に来てくださいとのことです」

 俺はベットから降りる。

 俺は昨日の服装のままだった。

 昨日は疲れていたからそのままの服装で寝たんだっけ?

 俺はまだ眠そうなイリアを抱っこしてメイドさんの後についていった。

 アヌたちは俺の後を着いてくる。

 ここから、フランゼル家の跡継ぎ争いが始まった。

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