第9話 帰宅

 冒険者登録をしたばかりのGランク冒険者が、Dランク冒険者を倒した。

 その事実を前に、野次馬たちは一周回って静かになった。

 Dランク冒険者が束になっても勝てないなどというありえない状況を見て、思考が止まったようだ。


 別にランクが合わなくて強い奴もいるだろうに。

 ギルド登録しただけでこれまでの努力が消えるわけでもないのだから。

 そんなことよりも、早く用事を終わらせて帰らば。

「これでランクアップは可能か?」

 俺は試験官に尋ねる。

「ああ、実力は十分に分かった。文句なくランクアップ可能だろう」

 ランクアップできるらしい。これで外に出る依頼が受けられる。

「それではランクアップをしてくれ」

「ああ。これがランクアップ後のギルドカードだ」

「そうか、助かったよ。じゃあ俺はこの辺で」

「そうか。ではまたな」



 デゥロモース通りの屋台で買い食いをし、—買い食いといっても、10人前以上を買い、アヌたちと食べながら余ったものをストレージに収納するということを繰り返していた―貴族街を通り過ぎ、領主の館の柵を乗り越え、庭からジャンプして窓枠に乗る。

 そこにはイリアとレトリアさんがいた。

「あ、お兄ちゃんだ!」

 レトリアさんはこちらに背を向けていたため、何が起きているか分かっていないようだ。

 そのまま走ってきたイリアを窓枠から降りて抱き上げる。

「いい子にしてたか?」

「うん。イリアいい子にしてた!」

 いい子にしていたらしい。

「イリアはえらいな~」

 俺がほめながら頭をなでると、ふふんとイリアは胸を張る。俺の手の中で。

 ヤッパリすごくかわいい。

「おかえりなさいませ、レイ様」

「ただいま。レトリアさん、今日はありがとうございます」

 イリアの相手をしておいてもらえて本当に助かった。

「いえいえ、これも仕事の内ですので」

「レトリアさん、そこはどういたしましてでいいんですよ」

「どういたしましてだよ!」

 イリアも俺の後に続けて言う。すげーかわいい。イリアの可愛さに、これ以外の語彙は必要ない。

「ふふ、はい。どういたしまして」

 レトリアさんもいい人だ。

『主よぉ。柵を乗り越えるまでは普通だったからよいが庭をそのステータスで庭を壊さない限界で走ってから、飛びあがるとは何があったのだぁ?』

 アヌがイシュタルの足につかまれて上がってきた。

 アヌは飛行手段を持たないため、縮小化を解除したイシュタルの背中に縮小化して乗るか、このように足でつかんでもらって運ばれるしかない。

 二匹はギルドの騒ぎの後からは当然、縮小化している

「あ!犬さんに鳥さんだ!かわいい!」

 イリアが俺の腕の赤から窓の外に向かって腕を向ける。

 アヌたちと遊びたいのだろう。

「イリアに会えるから早く走っただけだよ」

 これは半分正解で半分間違っている。

 兄とやらに鉢合わせしそうだったから、それがもう半分の理由だ。

 イシュタルは俺の足元でアヌを離してから、俺の肩に乗ってきた。

 イリアを話してやると、早速アヌにじゃれついた。

「こんにちは犬さん。ふふふ、もふもふだね。柔らかい!お名前は?」

 イリアはアヌが気に入ったようだ。

「その犬はアヌって名前なんだよ」

「アヌ?」

「そう、アヌ。仲良くしてあげてね」

「うん!仲良くする!」

 イリアはアヌとじゃれる。

 アヌも楽しそうに手加減をして遊んでいるようだ。

「イシュタルは混ざらなくてもいいのか?」

 俺は肩にとまっているイシュタルに尋ねる。

『暑苦しいのは苦手なの』

「そうかい」

 イシュタルにはイリアの可愛さがわからないのだろうか。

 いや、じゃれられるのが嫌いなのだろう。

「ふふふ、かわいいです」

 そう思っていたら、イシュタルがレトリアさんになでられ始めた。気持ちよさそうだ。

「レイ様。こちらの二匹は何者なのでしょうか」

 レトリアさんが真面目に聞いてくるが、その手はイシュタルをなで続けており、口元も緩みきっている。

「二匹は俺の従魔ですよ」

「従魔ですか。かわいいですね」

「二匹ともとっても強いんですよ」

「本当ですか?」

 レトリアさんが冗談めかして聞いてくる。何故か距離が近い会話の仕方になっているが、辺にかしこまられるよりもいい。

「ええ、本当ですよ」

 二匹とも2000年後のこの時代では、幻獣といわれているらしい。

「府府、そうなのですか。それでは、レイ様、イリア様。そろそろお夕食ですので食堂に移動しましょう」

 時と場合によって話し方は変わるらしい。

「イリアー食堂に移動するぞー」

「え~アヌは?」

 アヌと離れたくないようだ。隣でレトリアさんも口元に微笑を浮かべている。

「ごめんな。アヌたちはお留守番だ」

 ぶっちゃけアヌたちに食事は必要ない。

 俺の魔力を受け取ることで、食事の代わりにしているのである。

 だが、食べられる分には食べられるので、普通に娯楽として食べている。

「しょうがない。行こう、お兄ちゃん!」

 イリアが俺に手を差し出してくる。

 俺はその手を取って、食堂に向かった。


 この後、俺は家族と対面する。

 最悪の印象を植え付けながら。

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