第8話 ランクアップ

 今、ギルドの前はちょっとした人だかりが出来ていた。

 なにせ、ギルドに登録したばかりのFランク冒険者と、Dランク冒険者が戦うのだ。

 普通なら、Dランク冒険者が、勝つだろう。

 だが、新人のほうが、自分を奴隷にすると賭けたのだ。

 一筋縄ではないのだろうというのが、周りの反応だった。


「お前、負けたら俺の奴隷になれよ」

「ああ、なってやるとも。お前が俺に勝てたのならな」

 そういうと、男は腰の鞘から剣を抜く。

 対する俺は、ストレージからさっきの刀を抜き身で取り出す。

 その瞬間、周りがざわついた。

 この刀のすごさが分かったようだ。

「そんなすごい剣に、空間収納系のスキル持ちか、ますますほしくなったぜ」

 ストレージのほうも珍しいようだ。

 おっさんは何かを考えているようだ。

 どうせ、俺をどうしようかとかそんな感じだろう

「おっさん。あんたのやってることを教えてやろうか?」

「あん、なんだよ」

「そういうのを、捕らぬ狸の皮算用っていうんだよ」

「なんだそりゃ」

「手に入ってないものを考えたって無駄なんだよ」

 すると、周りから噴き出すような笑いが聞こえた。

 おっさんは、怒りと羞恥で顔を赤くしている。

「小僧、後悔しろ」

「くくく、俺が後悔することはないけどな。さあ、始めようか」

 もう試験官はいるみたいだしな。

「うおおおお!!!」

 男が雄たけびを上げながら突っ込んでくる。

 まあまあ鋭い振り下ろしだが、そんなものが当たるわけない。

 俺は、半身になって左に回避し、その次の振り上げは一歩引いて避ける。その勢いのまま一回転した横なぎの攻撃をしゃがんで避ける。

 奴は今、腕を振り切り、無防備な胸板をさらしている。攻撃してくださいと言っているようなものだ。

 そこに、峰打ちで刀を叩き込む。男に当たった刀は、何本かろっ骨を折りながら男を横へ吹き飛ばし、そのままギルドの壁に直撃させた。

 これで勝ったか?

「ま、まだだ。まだ負けていない」

 まだ起き上がれるか。根性あるな。

「お前は絶対に欲しいのだ」

 俺のスキル目当てか。

「それに俺は、お前との決闘が始まる前に、ダンジョンで得たマジックアイテムを使っておいた。まさか役に立つとはな」

 ほう、マジックアイテム。

「なんの効果があるんだ?」

「ついになっている宝石に信号を送るマジックアイテムだ。使い捨てだったが」

 使い捨てじゃダメじゃん。ちょっと、欲しかったのに。

 もう用はなくなったし、このおっさんどうしようか。

 するとそこのおっさんの仲間のような奴が出て来た。どうやら全員が戦死のようだ。

「おい、お前は何をやっているんだ」

「あの小僧が、俺に負けたら奴隷になるって言うんだ」

「なんな小僧のどこがいいん」

 おっさんの仲間は、こっちを見て固まった。

「何だあの剣は」

「しかも、奴は空間収納系のスキル持ちだ」

「本当だろうな?おい、お前ら今の聞いたか?奴に勝てば楽できるぞ」

「これは全力でやらねえと」

「本当、本当」

「久しぶりに本気でやるか」

 おっさんが五人に増えた。

「なあ試験官。」

 俺はギルドの入り口にいる試験官に話しかける。

「まさか俺に存在に気付いているとはな。それでなんだ?」

 いや、だれだって気づいてるだろ。周りを見ると、

 あれ?みんな驚いてる?ま、いいや。

「これ、俺自身の戦闘力はもう認められたか?」

「まあ、大丈夫だが、何をする気だ?」

 いやもうこいつらの相手するの面倒だから。

「アヌにやってもらおうと思って」

「アヌ?」

「いいか?」

「何をするのか知らんが、まあ、いいだろう。殺すなよ」

 いいらしい。やったね。

「おい、俺らをなめてんのか?」

 リーダー風の男が話しかけてくる。

 ほかの奴らは、怒りで声が出ないようだ。

 イシュタルは、俺の肩に乗っている。試験官と話している間に来たようだ。

「まあ、そんな怒んなって」

「貴様は俺らを「アヌ、やっていいぞ」何を言って」

 俺が何を言っているかわかっていないようだが、奴らは、数秒後、強制的に分からさせられることになる。

「ワオォーーーーーーン!!!」

 アヌが縮小化を解いて雄たけびを上げたことで。

 野次馬にも震えている奴がいる。だが、俺に決闘という名のケンカを売った奴らは、もっとひどい。

 腰が抜けて、漏らしてしまったやつもいるし、そこまでいかなくても、完全に腰が引けてるやつもいる。

『主よぉ、殺すぞぉ』

「いや、殺すのはなしにしておけ。試験官も言ってたし、バツがあったら面倒だ」

『殺したいがぁ、まぁ、了解したぁ』

 これで奴らが死ぬことは、ないだろう。

「さあ、第二ラウンドの始まりだ」

 俺のセリフと同時にアヌが飛び出していく。


 おっさんたちは剣を振り回すが、そんなものがアヌに当たるわけがない。

 横なぎの攻撃を飛んで回避し、着地と同時に胴を狙ってきた攻撃には、前足の一撃で吹き飛ばし、真正面からの攻撃には、剣を噛んで持ち上げ遠くにいたやつに投げつける。後ろからの攻撃には、尻尾で足を払いそのまま後ろ足の攻撃を食らわせる。

 最後に残ったリーダー風の男には、前足で踏みつけて戦闘不能。

 こうして、おっさんたちは全員気絶した。


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