第6話 イベント

 男の下半身から噴き出る血の勢いは弱まってきている。

 抜き身の刃には血一つ、付いていない。

 さて最後はこのくそ女をどうするか。

「あとはお前をどうするか」

 それを聞いた女は、必死に自分の服を破いていく。

 そうして半裸に近い格好になりながら、言う。

「ね、ねえ。あたしの体を好きにしていいからさ、あたしを助けてくれない?」

 媚びるような視線を向けてくる。もともとの顔立ちはなかなかに整っているため、半裸に近い格好も相まって、その辺の女を知らない奴なら、飛び掛かってもおかしくないほどの色気を発している。

「・・・俺はお前の仲間を殺しているが」

 こいつはいけると思ったのか、さらに言葉を重ねてくる。

「あいつらもこんなことをやってたのさ、殺される覚悟ぐらいあっただろうよ」

 それを聞いて俺は笑みを浮かべるしかなかった。

 それを見て、女は勝ったと思ったのか、しなだれかかってくる。

 自分の豊満な胸を俺に押し付けるように。

 だが俺はそれを当然かわす。こんなやつに触れたくもない。

「なんでよけるの!」

 女はバランスを崩し、地面に転んだ。

 そのままの体勢でこっちをにらみつけようとした女が見たのは、刀を振り上げている俺の姿だ。

 そこで女は気が付いたのだろう。

 俺の笑みが、自分の体への欲望の笑みではなく、冷笑であったことを。

 女は目の前で震えている。

 こんなやつより、さっきの男のほうが100倍ましな奴だった。

「俺がお前を手に入れられるとしても、お前はいらないな」

「ね、ねえ。ま、待ってよ」

「お前はさっき自分で言ったよな。こんなことをしているんだ、殺される覚悟ぐらいあったと」

 自分で言ったんだ、当然自分も覚悟ぐらいあるだろう。

「ちょっと待っ」

 最後まで言わせず、俺は逆袈裟に女の首を斬り飛ばした。



 俺の目の前には、さっきの女の死体がある。首からはいまだに血が流れている。

 刀はすでに鞘にしまい、ストレージのなかだ。

 この場合、どうするのが正解なのだろう。

 警備兵につれていくのが正解なのか。

 でもこれだと、俺が虐殺したみたいになるな。

「殺さなきゃよかったな」

 つい勢いで殺してしまった。

『それより主ぃ、この生きてる者たちはぁ、どうするのだぁ?』

 生きてるやつ?そんなやついたっけ。

「どいつ?」

『あれですよ、レイ様。最初に私たちが吹き飛ばした奴ら』

 おお、証人がいたぞ。これで俺が難癖付けたと思われなくて済む。

「アヌ、よく教えてくれた、えらいぞ」

 そういいながらアヌの頭をなでる。

『や、やめよぉ、主よぉ』

 口ではなんだかんだ言いながらいやではなさそうだ。

 いや~癒される。あ~、アニマルセラピ~。

 しかたない。こいつら連れて警備兵のところに行くか。


 そのあと俺たちは、気絶している奴らを縄で引っ張って警備兵の詰め所まで言った。そして今、警備兵に事情聴取されている。

「では、奴らが襲ってきたから返り討ちにしたというのだな」

「だから最初からそう言っている」

 長い。さっきからずっと同じ質問をされている。さっさと解放してほしい。唯一の癒しは、膝の上にいるアヌとイシュタルだ。あ~、もふもふ。癒される~。

「路地裏、確認に行ったか?」

「ああ、行ったよ。あそこまでやる必要はなかったのではないか?」

「もう後の祭りだ。そろそろいいか?」

 俺は立ち上がりながらそう聞く。

「ちょっと待ちたまえ。君、名前を」

「名前?えーと、レイ。レイ・フランゼル」

 フランゼル。それはここ、シーモアを収める領主家の家名だ。

「ふ、フランゼル!?り、領主様の家系の方の方でしたか。誠に申し訳ございませんでした!!」

 そういいながら、警備兵は土下座をしてくる。

 領主の家系ってそんなに偉いのか?いや、上司の家系みたいなものだからな。

 そういう態度になってしまうのも当然ではあるか。

「あ、いや。それはいいのだが。もう行ってもいいか」

「すみません、最後に凶器のほうだけ見せていただければ」

 土下座しながら、警備兵は言う。

 面倒だが見せれば終わるのだろう。ちょうど俺は立っているし。

 俺は、ストレージか抜き身のまま刀を取り出す。

「こ、これは、すごい」

 警備兵は、刀に目を奪われている。

 それはそうだ。

 一目でわかる、ほかのマジックアイテムとは一線を画す、圧倒的な格。

 だがこのままでは話が進まない。刀をストレージにしまいながら、警備兵に問う。

「もういいか?」

「あ、はい。ご協力ありがとうございました」


 ようやく解放された。もうすぐ昼である。

「戦っている時間より事情聴取のほうが長いってどういうことだよ」

『あそこまでやったのだから、当然だと思うわよ?』

 そうなのか?警備兵も大変だな。

 終わったことはどうでもいい。

 さあ、冒険者登録だ。

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