第5話 騒動
あのまま俺は、歩いている。
アヌは俺の足元を一緒に歩いているが、イシュタルはアヌの上に載っている。
それより、さっきからすれ違う人達にじろじろ見られている。
多分俺の顔が原因だろう。前世では、魔物と戦ってしかいなかったからこんな視線を向けられることもなかったが、平和になったこの世界ではそりゃそうなるだろう。
さて、到着したぞ、冒険者ギルド。
強制イベントは発生しなかったな。
いやー楽でいいn
「キャアーーーーー!」
冒険者ギルドの隣の細い道から悲鳴が聞こえた。
フラグだったか。最悪だ。
まあ、ほっとくわけにはいかないだろう。
「おい、おい、嬢ちゃんよ俺たちと一緒に遊ばない?」
「楽しいこと教えてあげるぜ」
「なあ、遊ぶよな?」
ガラの悪い大柄な男たちが女の子を脅している。
「やめてください。どっか行ってください」
女の子は嫌だと言っている。
でもなんか。
「その辺でやめときなよ、おっさんたち」
面倒だが声をかける
「あぁん、なんだ小僧」
「俺たちの邪魔をするか?ああぁ?」
「親分、こいついい顔してますぜ。奴隷として売ったら金になりそうですぜ」
「そうだな、殺さずにとらえるか」
どうやら、奥の冒険者崩れの男が親分で、その前のスキンヘッドの大男と、メタボの男と長髪の男が手下みたいだな。
「そこの女の子、助けはいるか?」
「はぁ~」
彼女は赤面して返事がない
「おーい。助けはいるか?」
「あ、は、はい。助けてください!」
助けはいるらしい。だがな~、なんというか。面白いことになりそうだ。
「おい小僧、俺たちを無視するとは、いい度胸だ」
「そうだそうだ。俺たちが誰だが分かっているのか?」
こいつらがだれだか?
「くっせぇおっさんだろ」
おっさんたちの頭に青筋が浮かんでいく。
「貴様、よくもそんなことを」
「俺たちゃ、Dランク冒険者だぞ」
「ぶっ殺してやる」
おっさんたちがとびかかってくる。だがやっぱりくっせえな。
『ふふふ、愚かな者たち』
『黙らせるぞぉ』
縮小化したままのアヌとエンリルによって一撃で鎮静化された。
壁にめり込むぐらい吹き飛んだが、まあ悪党に心配は必要ない。
どちらも一撃だ。
もう一人は俺のこぶしが鳩尾にめり込んでその場に崩れ落ちた。
「な、なんだと」
親分と呼ばれていた男がうろたえている。
ここは、女の子を守る形で立つべきだろう。
女の子の前に立った瞬間、親分と呼ばれた男が笑みを浮かべる。
「ふふふ、バカめ。今だ、やれ」
あ~あ、やっぱりな。
俺の予想は当たり、背中に衝撃を感じた。
直後、背中の心臓付近が熱くなってくる。
「ふふふ、あははは、馬鹿ね。あたしに背を向けるとか。刺してくださいと言っているみたいなものじゃない。あ~あもったいない。せっかくイケメンだったのにな~。ちゃんとあの手下たちで終わらせなさいよ。何なのあの役立たずたちは」
「すまんな、急ごしらえの奴が多かったもんでな」
「まぁいいわ。さっさと金目のものとそのワンちゃんたちをもって、帰りましょう」
「そうだな。あの犬たちは金になりそうだ」
女は俺を飛び越えて親分と呼ばれた男に近づき会話している
アヌたちは俺の後ろにいる。女と入れ違うようにこっちに来てもらったのだ。
つまり、アヌたちよりも先におれに近寄るはずである。
「早く金目の物をとっちゃいなさい」
「へいへい。わかってるよ。さっさと・・・え?あ、あ、あ・・・」
「へ、何が…な、なんで」
そんな化け物を見るみたいな顔で見ないでほしい。
仲間が倒れた音を聞いて振り返ったときの顔がそれとか、笑えてくるだろ。
べつに俺は何一つ難しいことをしてない。
近づいてきた糞野郎を、ストレージから出した刀で刺し貫いただけである。
「な、なんで生きてるのよ」
「お前もなんで俺を殺せたと思っていたんだか。お前ごときの力で短剣を刺したところで俺を殺せるわけないだろ」
べつにこの短剣、業物なわけでもないし。
圧倒的なレベル差によってダメージにならなかっただけだ。
だがこの刀はオーバーキルだったな。
刃渡りが160センチもあり、柄も30センチある漆黒の刀身と純白の柄と鞘を持つ刀だ。
そして魔神の神格を破壊したのもこの刀である。
長さも威力もこいつに使ったらそりゃオーバーキルだわ。
しかもこの刀は、魔力を流せば、切れ味が上がるマジックアイテムだ。
(今回話魔力を流してはいないが)
俺がとってきた素材を使ってドワーフの始祖が最高の力と技術をもって作った刀だ。
完成時に俺の魔力を流しているから、俺には重さを感じないが、実際は100キロぐらいある。
魔力を流す前に俺がこの刀を普通に持ち上げた時のアイツの顔と言ったら。
しっかし最悪だ。
しかも服に血が付きそうだったし。足元に死体があって血が流れてるし。
だがこの女はそのままにしておかない。
「人を殺そうとしたんだ。殺される覚悟もあるよな?」
俺は右手で持っていた刀に付いていた血を振り払い、刀を持ち上げながら問う。
何も構えず、ただ持ち上げただけ。
この刀を振り下ろせば、こいつの命の火は消える。
さあ、いつ振ろうか。
「ね、ねぇ、ちょっと待って。おねがいだから」
「なんだ、今から命乞いか?そんなのなら最初からこんなことするなよ」
「ま、待ってくれ」
だれだ?
振り向いた先にいたのは、へぇ~。俺が気絶させたのだから、まだ起きられないと思ったのだがな。あの全身を覆っている鎧のおかげか?低ランクのモンスターの皮のようだが。
「姉さんには、手を出させないでくれや」
「あ、あんた起きたのね。さ、さっさとやっちゃいなさいこんなやつ。あたしに近づけないでよ。あんたも死ぬなら私の役に立ってから死になさい」
この女はどこまでも救いようがないな。
「こんな奴なのに助けようと思うのか?」
「こんな人でも俺を助けてくれたんでね」
こいつが人を助けるね~
「道具を増やすために助けただけだと思うが?」
「それでも助けてくれたことには、ごふっ、違いはねえでっさ」
「・・・そうか」
こんな悪党でも義理を果たそうとするような、ましな奴が残っているのだな。
「いいだろう。敬意を表して一太刀で終わらせてやる。かかってこい」
「ははは。それはっ、ありがてえ」
男は腰から剣を抜いて構えた。
対する俺は、刀を純白の鞘にしまう。抜刀術の構えである。
この技は刀身を鞘の中で滑らせて加速させながら引き抜き、斬りつけることで、
刀術最速の技へと昇華する。
勝負は一瞬で決まる。
男が3歩、前に出た。次の一歩はもう、抜刀時の間合いの内側。
そして4歩目を踏み出す。その足が地に着いた瞬間、鯉口が切られ、漆黒の刀身が鞘から顕れる。
一瞬の間に、黒い残像を残して刀は振り切られていた。
切口が鋭かったためであろう。
男の体は、数秒してから上半身がずれていき、そのまま地面に落ちる。そこから大量の血を噴水のように吹き出しながら、下半身は、地面に倒れこんだのだ。
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