第4話 初外出

 そのあと、朝ご飯を食べ終わった俺たちは、一旦、元居た部屋に戻ってきた。

 朝ご飯は、パンにスープと何の肉かわからないベーコンなど。俺とイリアの二人だけで食べた。正直この部屋でもよかったのでは、と思う。


「さてこれから俺は出かけてくるから、イリアはこの部屋にいてくれるかな?」

 俺はやるべきことがあるので、出かける必要があり、イリアはこの部屋にいてもらう。この部屋には大量の本があるので大丈夫だろう。

「うん!僕この部屋にいる!」

 相変わらずかわいい。


「イリアのことよろしくお願いしますね」

 俺はそう、イリア専属のメイドさんに頼む。彼女はレトリアさん。俺たちの部屋をノックしてきたメイドさんである。

 ちなみに俺にも専属メイドさんがいたのだが、父親に言って、外してもらった。

 だって、ずっとついてこられて邪魔だったんだもん。

 そういったら何故か呆れられた。何故だろう。


 閑話休題


 というわけでレトリアさんに頼んだのだ。

「かしこまりました。お任せください」

 これで大丈夫だろうが念には念を入れて、イリアにあるものを渡しておく。

「イリア。これをあげよう」

「ん-?なにー?」


 イリアに渡したのは六芒星が6個、一列に並んでいる装飾がついた腕輪である。

 これはミスリルを銀でコーティングして出来ているので飾りとしても一級品ではあるが、そんなものは副次効果でしかない。


 これの本当の効果は、常時の微弱な疲労回復、緊急時の障壁展開と緊急連絡である。

 この障壁は、イリアに明確な殺気が向けられた時に勝手に発動する。障壁は絶対壊されないというわけではないが、それなりの強度がある。

 さらに緊急連絡は俺へと届く。

 つまり緊急連絡が来たら、イリアの危機ということだ。

 その時はすぐに俺が駆け付けられる。

 なぜなら緊急連絡とともに、位置情報も送られてくるためである。

 さらに、これは俺とイリア以外が持ち去ろうとした場合、人間なら、心臓が止まるほどの強さの電流が流れる。これならだれにも取られないであろう。


「お兄ちゃん。つけてー!」

 イリアが可愛くおねだりしてくる。

「いいよ」

 この腕輪には、サイズ自動調節機能がついているので、大きくなってもつけていられるようになっている。

「はい、ついたよ」

 腕輪を、イリアの右腕につける。

「ありがとう。お兄ちゃん!」

 輝かしい笑顔を向けてくる。耐性が付いたかと思ったが、全然だめであった。

「お風呂の時以外は外さないほうがいいよ」

「うん!外さない!」

 いい子である。つい頭をなでてしまった。


「それじゃ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい!」

「行ってらっしゃいませ。レイ様」

 イリアとレトリアさんの声を聴きながら、俺は窓から飛び降りた。

 背後からレトリアさんの大声が聞こえた気がしたが、気のせいであろう。


 こうして屋敷の窓から飛び降りた俺だが、今は屋敷の庭にいる。


 今のうちに相棒たちを呼んでおこう。

「さぁ来い。アヌ、イシュタル」


 その直後、俺の前に巨大な二つの影が現れる。

 その影はだんだん形作っていく。

 そして影が晴れた後にいたのは、巨大なオオカミと、巨大なワシだった。


 オオカミのほうは、体長が5メートル、体高が3メートルはありそうな、巨大なオオカミだ。毛は俺の髪と似ていて、金と銀が混じっている。

 名はアヌ。種族は、スターライトフェンリル。性別は雄である。


 ワシのほうは、全長4.5メートル、翼を広げると10メートルにも達するであろうこちらも巨大なワシだ。羽毛は黒と白が混じっている。

 名はイシュタル。種族は、テンペストハク。性別は雌である。

 二人とも、目は紫色をしている。


『久しぶりだなぁ。主よぉ』

 アヌは相変わらず間延びした、独特の話し方話し方をする。

『この世界でも変わらない容姿をしているのね。レイ様は』

 イシュタルは、出てきた最初の一言がそれである。

 この二人は前世で俺が契約した、大切な仲間である。

 ちなみに二人が使っているのは、念話である。これは俺にしか聞こえないので、だれか出てくることはないはずである。


「二人とも久しぶりだな。呼び出すのが遅くなってすまなかった」

『それはぁ、いいのだがぁ、転生してから何があったのだぁ?』

『それに羽は仕舞っているのかしら?』

 そう俺には翼があった。俺の種族は天魔である。—この世界で天魔は、俺一人らしい―天魔には、3対6翼の漆黒の翼がついている。

 あの羽、飛ぶときには重宝するんだよな。

「まあ今世は人間ということになっているからな。羽は出してないんだよ」

『あら、そうなのね』

「それに転生してからが大変でな」

 そのあと俺は転生してからのことを話したのだ。


 二人と話し終えた俺は、屋敷の塀を乗り越え、貴族街を出て、大通りにいる。この大通りは、デゥロモース通りというらしい。

 ちなみに今、二人は縮小化してもらっている。

 アヌは小型犬ぐらいの大きさに、イシュタルは小鳥ぐらいの大きさになっている。

 戦闘力は半減するが、可愛くもなり、目立ちにくくなる。


 そしてこの、俺の屋敷である領主の館と、正門を結んでいるデゥロモース通りの中央付近に、目当ての建物がある。

 そう、冒険者ギルドだ。

 今日の俺の目標はここだ。

 さあ冒険者ギルドに向けて。

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