第2話 魔王復活


 ♢♢♢


 魔王の死より長いときが経った。


 コーズモスのヒューマンの国アンドラスの辺境伯爵家に無能と言われてさげすまれる子供がいた。

 その子の顔は長い髪によって見えないが、それでも容姿端麗と分かる。


 そこに強大な魔力の塊が下りてくる。

 その魔力の塊はその子に入り込み、その体になじんでいく。


 そしてその力が完全に体になじんだ時

「ああ、復活だ」

 ついに史上最強の魔王、復活の時であった。


 ♢♢♢


 目覚めるとそこは無限に続く白色の世界。

 終わりが見えない地平線と境がわからない天井。

 遠近感覚すらなくなりそうになる


 ここに来るのは二度目だ。

 前回は魔王と呼ばれたコーズモスに行く前に寄ったのである。


 そして俺には今引っかかっていることが一つある。

 魔神が死に際に放った一言だ。

 俺は最高神にあったことがある。

 本当に最高神が魔神にあのような呪いをかけるだろか。

 少なくとも俺はそんな奴だとは思わない。

 なぜなら、俺が知っている最高神はそんな奴ではないからだ。


「お久しぶりですね。レイさん」

 いま、俺に向かって神の意向がごとき光を放ちながら話しかけてくる女神こそ、最高神の名を冠する女神なのである。


「こうしてお会いするのは二度目ですね。前回はコーズモスに転生してもらう前にお会いしたのが最後でしたか?」

「そうだな。最後に会ったのはそこで間違いない」


 そう、もともと俺はこの世界の住人ではない。

 女神からの依頼により地上を跋扈する魔物の駆逐と元凶である魔神を討伐するためにコーズモスへと向かったのだ。

 本来最高神は地上に対して五種族を生み出して以来は不干渉であった。

 しかし魔神が暴威をふるっているのを見て、いたたまれなくなり、何とかしようと思ったそうだ。


 しかし神である彼女が直接力をふるえば、その力が強すぎて世界が崩壊してしまう。

 そう彼女はいまだに力を制御できていないのである。

 そこで地球から呼ばれた俺が代わりに魔物を討伐したのだ。

 しかし普通の男子高校生だった俺に魔物の討伐など無理なわけで、その時女神が持っていた力の一部により、戦う力を得たのである。

 今の俺の力はこんな感じである


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前   レイ


 種族   天魔


 レベル  18345


 特殊能力 固有魔法〈破滅〉

     固有魔法〈創世〉

     ストレージ


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ちなみにこの特殊能力が前回この世界でもらった力である。

 これが強いは強いは。


 ここで特殊能力の説明をしておこう。

 固有魔法〈破滅〉—力を発動したときの自分自身、あるいはその力を付与したものが触れた時、そのものを消滅させることができる。しかし、この力を付与できるのは、自分自身の魔力で生み出した物のみ。生物は、自身よりレベルが低い者のにのみ、効果を発揮する―

 雑魚なら倒すのに1秒もいらないといったのは、この力があるためである。


 固有魔法〈創世〉—自分自身の魔力をもとに物を生み出すことができる。生物は生成不可能。だが、所詮魔力を固めて作ったものにすぎず、一から素材を集めて、一流の職人が丹精込めて作ったものには及ばない―


 ストレージ―収納スキル。収納数、収納物の大きさ、重さは無制限。生物は収納不可能。収納したものの、リスト化、内容の閲覧、分解、合成、解体が出来る—

 こんな感じのチートである。


 さらにレベルがすさまじく上がっている。

 魔神を倒す前は、14855だったのに。

 350ぐらい上がっている。


「あなたが倒したのは、あれでも神ですから」

 女神サマは心が読めるんだったな。

 神と魔物では倒した時にもらえる経験値量が違うらしい。

 まあそりゃそうだ。

 相手は神なのだから。


 俺はこの女神からもらった力をもって、地上の魔物たちを駆逐したのだった。

「では、さっさと次の時代に転生させてくれ」

 そう、まだ俺への依頼は成功していないのだ。

 魔神にあのようなことを命令した犯人の殺害までしなくてはならない。

「分かりました。あなたには、あれから2000年後の世界に転生してもらいます。

 まぁ、頑張ってください」

 何か歯切れが悪かった気がするがまあ大丈夫だろう。

 こうして俺の意識は薄れていった。



 意識が覚醒していく。

 だんだん目に光が写ってくる。

 そして目を開けるとそこには知らない天井があった。

 それと前を見るのにも苦労しそうな鼻にまで達していそうな前髪があった。

「ここは誰の部屋だ?」

 正直その辺の荒野にも飛ばされるのだろうと思っていたのだが、まあまずは情報収集だ。


 周りを見回す。

 そこには普通のベッドと机、本棚と箪笥が置いてあるだけの質素な部屋である。

 ベットの上には、一人の男の子が寝ていた。


 その瞬間、頭の中に記憶が流れ込んでくる。

 それはレイという名前の少年の記憶。

 生まれた時から今、俺に人格が変わるまでに記憶。


「まさか前世の俺と同じ名前だったとはな。しかし、胸糞悪い記憶だ」

 その記憶は胸糞悪いものだった。


 まずこの世界は、俺らが魔神と戦ったコーズモスだ。

 そしてこの世界の大陸には、ヒューマンの国、エルフの国、ドワーフの国、ビーストの国、ドラゴニュートの国がある。この大陸は、すごく雑に形をとれば、平行四辺形ともいえる。(もちろん、へこんでいるところ出っ張っているところもあるが)

 そんな大陸の右上にドワーフの国ナノスが、中央にヒューマンの国アンドラスが、左上にエルフの国ネレイダが、左下にビーストの国フィーリオとドラゴニュートの国キリマカがある。

 ちなみに右下には、魔の地域と呼ばれる、ドラゴンなどの強力な魔物がいる地域がある。何故か魔物は、めったなことではこの地域から出てこないらしいから安心らしい。

 この地域から少し離れたところにあるのが、俺が転生したこの領地らしい。ここには、辺境ゆえに、ここでしか取れない素材が数多くある。

 なので1年を通してにぎわっている。


 そしてヒューマンの国アンドレスは、すべての国と領土が接している。戦争などは起こっておらず、平和らしい。

 それは、それぞれの国と国の間に、障害があることも関係しているだろう。

 エルフの国ネレイダとの間には、世界樹が生み出している二重の障壁。

 ドワーフの国ナノスとの間には、2000メートル級の山々が連なる山脈。

 ビーストの国フィーリオとの間は幅が数百メートルに及ぶ、荒れ狂う川。

 ドラゴニュートの国キリマカとの間には、底が見えないほど深い谷がある。

 こんな障害を突破してまで攻めるのは愚策だろう。

 これが、この世界の大雑把な地理であるらしい。


 そしてレイの生活は、ごみのようだった。

 レイの母親は体が弱く、第二子を生んだ時に死んだらしい。

 しかも彼の母親は第二婦人であり、第一夫人からよくいじめられていたそうだ。

 さらに彼が生まれた年には家族全員が病気にかかったりと、完全に疫病神扱い。

 今は父親が生きているから、普通の飯に普通の服を切れているが、当主が父親から兄に変われば、勘当された後、暗殺者に追われるだろう。

 そして今まで家では、兄がこっそり嫌がらせをしてきている。

 そんな生活を送っていた彼はもう自分の人生をあきらめていた。


 しかしそんな彼にも一つだけ願いがあった。

 それは、弟には幸せになってもらいたいというもの。


 こんな生活でも自分のことではなく弟のことを願っているとは。

「ははは、いいだろう。その願い、この俺がかなえてやろう」

 こうしてまず、俺がやることは決まった。

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