エンシェストロード~古の魔王は2000年後の世界を堪能する~

光夜

第1話 プロローグ

 強さこそが絶対。


 種族が生まれ始めが大陸の端で怯えながら生きていたころ、世界コーズモスでは広大な地上をそんな概念を持った強大すぎる魔物が自分が最強だと証明しようと気が遠くなるほど戦っていた時代があった。


 しかし二千年前、すべての強大すぎる魔物を圧倒的なまでの力をもって駆逐し、五種族—ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ビースト、ドラゴニュート―が繁栄できる基盤を作った魔王がいた。


 後世によってその史上最強の魔王につけられた名をラヴィレスという。


 大陸全土の魔物を駆逐し終え、五種族の平和は大丈夫だろうと思えるようになったころ、魔王と五種族の始祖たちは、強大すぎる魔物を地上に放った元凶たる魔神に挑もうとしていた。


 神界にある城の玉座に座している魔神は霊体のみであったが神々しさを振りまくように光り輝いている。

『地上の魔王と五種族の始祖たちよ。余に何の用であるか』魔神は尊大に問う。

 頭に直接話しかけてくる魔神に対して委縮した様子もなく、魔王は答える。

「貴様の命をもらいに来た」

 そんな魔王に対して魔神はどこか嬉しそうでもある。

『そうかそうか。今まで余との力の差を理解し戦いを挑んでくる者はいなかった。魔王たちよ、ここまで来たその力に敬意を表して余も全力で相手をしてやろう』

 そういうと魔神は受肉し、身長10メートルにも及ぶ巨体へと変化した。


 そこから魔神と魔王たちによる三日三晩に及ぶ激しい戦いが続いた。


 魔人の神力からタイムラグなしで魔王たちへと発生する事象は、その余波だけで神界の城を吹き飛ばし、山は崩れ、川は干上がり、森は荒野へと姿を変える。

 余波だけでこれなのだ。その力のすさまじさがわかるだろう。


 ヒューマンの始祖の神聖魔法は仲間のけがを癒し魔神の分体を消滅させている。

 ドワーフの始祖の一撃は魔神の眷属を木っ端微塵に粉砕している。

 エルフの始祖の精霊魔法は魔神を切り刻み、

 ビーストの始祖は近接戦闘で魔神にダメージを与えていた。

 ドラゴニュートの始祖は

 そして魔王は強大な魔法で魔神の神力をねじ伏せていた。

 そのすさまじさといえば、火炎魔法は地表に太陽が出現したようであり、水氷魔法を使えば、魔神を数秒とは言え閉じ込める巨大な氷山が出現し、雷鳴魔法は、天と地をつなぐほど巨大な雷を落とした。


 そして三日晩続いた戦いは、崩壊した神界の残滓の中で魔王が魔神の神格を漆黒の刀身を持つ刀で刺して決着したのである。


『ははは。余を倒すとはなかなかやるではないか。魔王たちよ。その力は素晴らしいものであった。敬意を表して冥土の土産にいいことを教えてやろう。魔王よ、我を殺したところで大してこの世界は変わりはせん。何せ我はあの方の命によりやっていたのだからな。確かにこれ以来2000年ほどは平和になるだろう。だが第二、第三の我が現れるだけである』

「そうか」

 なんとなく予想していたのか魔王の表情に悲壮感などは浮かんでいない。

 次があっても自分が倒せばいいと思っているのだろう。

『それに貴様はもうすぐ死ぬのである』

 魔神は地面に倒れているが、してやったりといった表情を浮かべている

「なに?」

 魔王の表情が驚愕に変わった。

『余の体には呪いがかかっていたのだ。世を殺せるような奴そのままにしておくと成功しないのでな。そこで成功率を上げるために、余が死ぬと、とどめを刺したものを道ずれにするという呪いがあの方、いや最高神によってかけられていたのである』

 魔神は楽しそうに自分の身にかかっている呪いについて語っている。

「最高神が?」

 そのせいでいぶかしげな表情をしている魔王に気づくことはなかった。

 魔神の体が崩壊し始める。それと同時に魔王の体も崩壊を始めた。

『それでは魔王たちよ、さらばなのだ』

 高らかに笑いながら魔神はチリとなって消えていた。

 それは道ずれにした魔王への嘲笑のようにも聞こえた。

 そんな時、魔王は少し悔しそうにしながら言った。

「みんな、またな」

 そう言い残して魔王は死んだ。


「お久しぶりですね。レイさん」

 全面が白一色の世界で神の威光を放っている女が男に話しかけている。

 男は魔王ラヴィレスである。

 史上最強の魔王の再誕の時はすぐそこまで来ていた。

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