第33話 最後の晩餐 ⑤

三田村香織と藤田涼介は、次に「ラ・ルミエール」のスタッフたちに話を聞くため、再びレストランを訪れた。冷たい風が海から吹き付ける中、レストランの外観は静かに佇んでいた。


副シェフの佐藤信二が二人を迎え、落ち着いた表情で話し始めた。「またお越しいただき、ありがとうございます。何か新しい手がかりは見つかりましたか?」


香織は丁寧に頭を下げ、佐藤に尋ねた。「佐藤さん、正彦さんの死について、何か新しい情報があれば教えていただけますか?特に、彼の行動や言動で気になることがあれば。」


佐藤は少し考えた後、慎重に話し始めた。「正彦さんは最近、特に焦りを感じているようでした。私たちスタッフにも厳しくなり、自分自身にも厳しくなっていました。」


「その焦りの原因は何だと思いますか?」涼介が尋ねた。


「それはわかりません。ただ、彼が新しいメニューの開発に取り組んでいた時、何度も試行錯誤を繰り返していたのを見ました。特に『関門海峡タコとカブのヴァンブランソース』には、特別な思いがあったようです。」


香織はメモを取りながら、佐藤の言葉に耳を傾けた。「その料理に込められた思いとは、具体的にどのようなものでしょうか?」


「正彦さんは、その料理が彼のキャリアの集大成であると同時に、何かを伝えたかったのだと思います。」佐藤はそう言って、少し沈黙した後続けた。「彼は、料理を通じて自分の限界と向き合っていたのかもしれません。」


次に香織と涼介は、ソムリエの田中雅人に話を聞いた。田中は深いため息をつきながら、話し始めた。「正彦さんは、本当に素晴らしいシェフでした。しかし、最近は何かに取り憑かれたように見えました。」


「それは、どういった意味でしょうか?」香織が尋ねた。


「彼は、料理に対する完璧さを追い求めるあまり、精神的に追い詰められていたのです。私は彼に何度も休むように勧めましたが、彼は聞き入れませんでした。」田中は悲しげに答えた。


「他に何か気になることはありますか?」涼介がさらに尋ねた。


「実は、正彦さんの机の引き出しから、ある手紙を見つけました。」田中は小さな封筒を取り出し、二人に手渡した。


香織は封筒を開け、中の手紙を読み上げた。「親愛なる正彦へ、君の料理は素晴らしい。しかし、それが君を追い詰めるものであってはならない。君の限界は君自身が決めるものではない。村上健一。」


「村上健一からの手紙だ。」涼介は驚いた表情で言った。「彼は正彦さんを励まそうとしていたのか。」


香織は手紙を慎重に折りたたみ、「この手紙には、正彦さんの心情が反映されているわ。彼が何を感じていたのか、もっと深く知る必要がある。」


その日の午後、香織と涼介は再び美咲の家を訪れた。彼女は二人を迎え入れ、落ち着いた表情で話を始めた。「何か新しい手がかりは見つかりましたか?」


香織は正彦のノートと手紙を見せながら、「正彦さんが何を感じていたのか、少しずつわかってきました。彼は料理に対する完璧さを求めるあまり、自分自身を追い詰めていたようです。」と説明した。


美咲は深いため息をつきながら、涙を浮かべた目で二人を見つめた。「彼がそんなに苦しんでいたなんて、気づいてあげられなかった。」


涼介は美咲の肩に優しく手を置き、「美咲さん、私たちは正彦さんの死の真相を明らかにするために全力を尽くします

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