第5話 カレー店の陰謀 ⑤

香織と涼介は、脅迫文を警察に提出し、さらなる調査を進めるために探偵事務所に戻った。彼らは手紙の筆跡や使用された紙の種類など、細部にわたる分析を依頼し、その結果を待つことにした。


その間、二人は再び成瀬龍之介について調べることにした。成瀬の過去の経歴や、人間関係、特に彼がどのようにして特殊な植物に関する知識を得たのかを探るためだ。


「成瀬さんの過去を調べることで、彼の動機や関与をさらに明らかにできるかもしれないわ。」香織が言った。


「そうだな。彼の背景を掘り下げてみよう。」涼介はコンピュータに向かい、成瀬の過去の経歴を調べ始めた。


数時間後、涼介は重要な情報を見つけた。「香織、これを見てくれ。成瀬は以前、大学で植物学を専攻していたんだ。そして、その後に特殊な植物を研究していた研究所で働いていた。」


香織はその情報に驚いた。「それなら、彼が毒物に関する知識を持っているのは納得ね。でも、それだけで彼が犯人だと断定するにはまだ証拠が足りないわ。」


「そうだな。もう少し調べてみる必要がある。」涼介が頷いた。


その夜、香織と涼介は成瀬についてさらに詳しく調べるため、大学の教授や研究所の関係者に話を聞くことにした。彼らは成瀬がどのような人物であったか、彼の研究内容について詳しく知るためだ。


翌日、二人は大学の教授である田中教授を訪ねた。田中教授は成瀬の指導教官であり、彼のことをよく知っていた。


「成瀬龍之介についてお聞きしたいのですが。」香織が尋ねた。


田中教授は少し考え込みながら答えた。「成瀬は非常に優秀な学生でした。特に植物学の分野で抜きん出ていて、その知識は並外れていました。彼は特殊な植物の研究にも情熱を注いでいました。」


「彼の研究内容についてもう少し詳しく教えていただけますか?」涼介が続けた。


「彼は南米の熱帯雨林に生息する非常に珍しい植物を研究していました。その植物は強力な毒性を持っており、薬学的な利用価値も高いとされています。」田中教授が説明した。


香織はメモを取りながら、「成瀬がその植物を手に入れる方法について何か知っていますか?」と尋ねた。


田中教授は首を振った。「具体的な入手方法についてはわかりませんが、彼は研究所でその植物を扱っていたので、入手することは可能だったでしょう。」


次に、香織と涼介は成瀬が働いていた研究所を訪ねた。研究所の関係者に話を聞くと、成瀬がその植物に関する深い知識を持っていたことが再確認された。


「成瀬はその植物をどうやって手に入れていたのでしょうか?」香織が尋ねた。


研究所の関係者は少し考え込んだ後に答えた。「彼は研究所のプロジェクトの一環で、その植物を取り扱っていました。そのため、研究所の許可を得て植物を手に入れることができたはずです。」


香織と涼介は情報を元に事務所に戻り、次の一手を考えた。「成瀬が毒物を手に入れることができたのは確かだけど、まだ彼が犯人だという決定的な証拠がないわね。」香織が言った。


「そうだな。もう一度カレーパラダイスに戻って、成瀬の動きを注意深く観察しよう。」涼介が提案した。


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カレーパラダイスに戻った香織と涼介は、成瀬の動きを注意深く観察し始めた。彼の行動や表情、言動に不自然な点がないかを探るためだ。


その日、店が閉店した後、成瀬は厨房で一人で作業をしていた。香織と涼介はその様子を見守っていたが、突然、成瀬が何かを見つけたように動きを止めた。


「何かを見つけたようね。」香織が小声で言った。


涼介も緊張しながら、「近づいてみよう。」と言った。


二人が成瀬に近づくと、彼は何かを隠そうとしていた。その瞬間、香織は声をかけた。「成瀬さん、何を隠しているんですか?」


成瀬は驚いた表情で振り返り、手に持っていたものを背後に隠した。「何も…隠していません。」


涼介が一歩前に出て、「その手に持っているものを見せてください。」と言った。


成瀬はしばらくためらっていたが、やがて手を差し出した。そこには、特製スパイスミックスの瓶が握られていた。


「その瓶には何が入っているのですか?」香織が尋ねた。


成瀬は目を伏せながら答えた。「これは…シェフが最後に作ったスパイスミックスです。でも、毒物は入っていない。僕はただ、彼のレシピを守りたかっただけです。」


香織と涼介はその瓶を慎重に調べた。瓶の中には確かにスパイスが入っていたが、何かが混ざっているように見えた。


「このスパイスを調べる必要があります。」涼介が言った。


「成瀬さん、私たちは真実を追求しています。協力していただけますか?」香織が真剣な表情で言った。


成瀬はしばらく沈黙していたが、やがて頷いた。「わかりました。全て話します。」


成瀬はシェフのレシピを守るために、誰かに脅されていたことを告白した。彼はその脅迫に屈しないようにしていたが、シェフの死が彼に大きな衝撃を与えたことも明かした。


「僕はシェフの死を防げなかったことに責任を感じています。でも、僕は彼を殺してはいない。」成瀬は涙を浮かべながら言った。


香織と涼介は成瀬の告白を聞きながら、真実に近づいていることを感じた。次に、香織は成瀬に脅迫の詳細を尋ねた。


「脅迫してきた人物について何か知っていることはありますか?」香織が尋ねた。


成瀬は首を振った。「具体的な人物についてはわかりません。ただ、シェフが何度か名前を口にしていたことがあります。『高城』という名前です。」


涼介はその名前を聞いて驚いた。「高城雅人…カレー評論家の?」


香織は鋭く頷いた。「次は高城さんに話を聞きましょう。」


こうして、香織と涼介は新たな手がかりを元に、高城雅人に対する調査を開始することにした。門司港の静かな夜は、真実に近づくための新たな一歩を踏み出す二人の探偵を見守っていた。

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