第2話 カレー店の陰謀 ②

三田村・藤田探偵事務所は、港町門司港の古いビルの一室に構えていた。二人の探偵、三田村香織と藤田涼介は、数々の難事件を解決してきた実績を持ち、その名は地元でも知られていた。ある朝、香織はデスクで書類に目を通していると、事務所のドアが音を立てて開いた。


「すみません、助けてください…」


その声の主は、目に涙を浮かべた女性、片桐美香だった。彼女はカレーパラダイスのオーナーであり、店の看板シェフである森田圭一の突然の死に心を痛めていた。


「どうぞお入りください。」香織は穏やかに声をかけ、美香をソファに案内した。


「お茶をお持ちしますね。」涼介が優しく声をかけ、彼女に温かいお茶を差し出した。


美香は涙を拭きながら事情を話し始めた。

「森田シェフが昨日の夜、突然倒れて亡くなりました。警察は毒殺と判断しましたが、誰が、なぜそんなことをしたのか全く見当がつきません…」


香織は頷きながらメモを取り、「その時、何か不審なことはありませんでしたか?」と尋ねた。


「特に何も…。ただ、厨房に割れたスパイスミックスの瓶が残されていました。それが何か関係しているのかもしれません。」美香は声を震わせながら答えた。


「分かりました。私たちが真相を突き止めます。」香織は確信を持って言った。


涼介も頷き、「すぐに調査を始めましょう。」と言い、二人はカレーパラダイスに向かう準備を始めた。


---


門司港の港町は、歴史的な建造物と現代の風景が調和する美しい場所だった。香織と涼介は、港に並ぶ古い倉庫や石畳の道を歩きながら、事件現場であるカレーパラダイスに向かった。道沿いには小さなカフェや土産物店が並び、観光客たちが楽しそうに歩いていた。


カレーパラダイスに到着すると、店の外観は温かみのあるレンガ造りで、看板には大きく「門司港名物 焼きカレー」と書かれていた。店内に入ると、カレーの香ばしい匂いが漂い、しかしその日はどこか重苦しい雰囲気が感じられた。


「ここが事件現場ね。」香織は小声で言い、周囲を見渡した。


店内には、悲しみに暮れるスタッフたちがいた。香織と涼介は、まず片桐美香に再び話を聞くことにした。


「昨夜の詳細をもう一度教えてください。」香織が尋ねた。


「森田シェフはいつも通り厨房で働いていました。突然倒れた時、厨房にいた成瀬龍之介がすぐに助けを求めましたが、もう手遅れでした。スパイスミックスの瓶が割れていて、その周りに何かこぼれていたように見えました。」美香は悲しそうに答えた。


香織と涼介は厨房に向かい、現場を詳しく調査した。厨房にはまだ割れたスパイスミックスの瓶が残されていた。香織はそれを慎重に手に取り、涼介と共に成分を確認した。


「ここに見慣れない粉が混じっているわね。」香織はメモを取りながら言った。


「これはただのスパイスではないな。毒物の可能性が高い。」涼介が答えた。


次に、二人は厨房スタッフの成瀬龍之介に話を聞くことにした。成瀬は森田シェフの右腕として長年一緒に働いていた。


「成瀬さん、昨夜のことについて詳しくお聞かせください。」香織が尋ねた。


「シェフはいつも通りに仕事をしていました。突然倒れて、何が起こったのか全くわかりませんでした。」成瀬は緊張した様子で答えた。


「森田シェフと何かトラブルがあったのですか?」涼介が続けた。


「いや、特にありません。ただ、彼が最近何かに悩んでいるようでした。」成瀬が答えた。


次に、二人はウェイトレスの田村花音に話を聞いた。彼女はシェフの姪であり、事件当夜も店にいた。


「花音さん、昨夜のことについて何か知っていることは?」香織が尋ねた。


「叔父はとても厳しい人でしたが、仕事には誇りを持っていました。昨夜、彼が厨房で何かに怒っている様子を見ました。」花音は少し困惑した表情で答えた。


「それは何に対しての怒りでしたか?」涼介が尋ねた。


「わかりません。ただ、特製スパイスミックスの瓶を手に取って、何かを確認しているようでした。」花音が答えた。


最後に、二人は店の常連客であり、カレー評論家の高城雅人に話を聞いた。高城は事件当夜も店に訪れていた。


「高城さん、昨夜のことについて何か気づいたことはありますか?」香織が尋ねた。


「私はただカレーを楽しんでいただけですが、シェフが厨房で何かを探している様子を見かけました。」高城が答えた。


「何か特別なことは?」涼介が尋ねた。


「彼がスパイスミックスの瓶を手に取って、何かを探しているようでした。まるで何かを見つけようとしていたかのように。」高城が答えた。


香織と涼介はこれらの証言を元に、森田シェフの死の真相を解明するための手がかりを集め始めた。門司港の風景とカレー店の雰囲気が絡み合う中、二人の探偵は次の一手を考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る