【完結】港町事件簿 特別編 グルメ殺人事件簿 ②

湊 マチ

第1話 カレー店の陰謀 ①

港町門司港は夕暮れ時の柔らかな光に包まれ、観光客と地元の人々が行き交う賑やかな通りが続いていた。そんな中、一際目立つ看板が目に入る。「カレーパラダイス」。この名店は門司港名物の焼きカレーを提供し、その絶品の味で知られていた。


店内はカレーの香ばしい香りに包まれ、多くの客が笑顔で食事を楽しんでいた。厨房では、シェフの森田圭一が忙しく手を動かしていた。彼はこの店の魂とも言える存在であり、彼の手から生み出される焼きカレーは、多くの人々に愛されていた。


「次のオーダーは、焼きカレー二つだ!」森田が大きな声で指示を出し、スタッフたちは手際よく動き出した。彼の指示のもと、厨房はまるで一糸乱れぬオーケストラのように働いていた。


その時だった。突然、森田が立ち止まり、額に手を当てた。顔が蒼白になり、彼の動きが止まった。スタッフたちは驚きの表情を浮かべ、何が起こったのか理解できないまま、森田に駆け寄った。


「シェフ、大丈夫ですか?」厨房スタッフの成瀬龍之介が声をかけたが、森田は答えなかった。彼の体がゆっくりと崩れ落ち、床に倒れ込んだ。


「誰か!救急車を呼んで!」成瀬の叫び声が店内に響き渡った。客たちは驚きの声を上げ、店内は一瞬で混乱に包まれた。オーナーの片桐美香が駆けつけ、森田の側にひざまずいた。


「圭一さん、しっかりして!」美香は涙ながらに呼びかけたが、森田は微動だにしなかった。


数分後、救急車が到着し、森田は緊急搬送された。しかし、その努力も虚しく、病院で彼の死が確認された。医師からの説明で、森田が何者かによって毒殺されたことが判明した。


その報せは「カレーパラダイス」のスタッフと常連客たちに衝撃を与えた。森田の突然の死と、その背後に潜む陰謀の匂いに、店は重苦しい雰囲気に包まれた。


事件が起こった夜、店内には割れた特製スパイスミックスの瓶が残されていた。それは、森田が最後に触れたものであり、彼の死の手がかりとなる重要な証拠だった。


門司港の静かな夜は、一人のシェフの悲劇的な死によって、その静寂を破られた。果たして誰が、何のために森田圭一を殺害したのか。その謎を解明するため、探偵の三田村香織と藤田涼介が動き出すことになるのだった。

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