34

 近衛部隊に案内され、私たちはちかくの病院に到着した。


 すぐに、ブリッツは手術室に運ばれ、私たちは待合室で待機するよう指示された。

 医者いわく一秒二秒をあらそう生命の危機らしい。


「春姫ちゃん……大丈夫ー?」

 となりにすわる千瀬さんが、私に声をかける。

「……はい」

 私はうなずいた。


 でも、体は微動だにふるえていた。

 もしも、彼女がたすからなかったら……。

 そんな不安が頭をよぎるたびに、心臓がバクバクと音をたてるのだった。

 それに同調するように、とおくからバタバタッと足音がひびいてくる。


「きたしッ!」

 待合室に姿を見せたのは、中部だった。そのうしろからホムラと木梨田がつづく。


「みんな……ッ!」

 目頭があつくなる。

 よかった、いきていたんだ……。


「春姫ちゃん……?」

 ホムラが心配そうに私の顔をのぞきこむと、ギュッと私にハグをした。

「心配かけてすまんかったなぁ。結局、うちら、うたれるまえににげてしもうたんや」

 木梨田が私とホムラをつつむように、だきしめる。


「いえ、三人ともいきていて本当によかった……」

 その様子をすこしはなれたところから、中部がうんうんと見つめていた。


「ところで、ブリッツは?」

 ホムラがおもいだしたように、顔を千瀬さんにむける。


「うん、いまが瀬戸際だって」

「そうなんッスか……」

 ホムラたちは表情をくもらせる。


「いつかとはおもっておったが……」

 木梨田が不安げにうつむいた。


「……そんな、ブリッツが」

 中部にいたっては、目をおさえて涙をおさえているようだった。


「そんなッ……」

 私はおもわずさけんでいた。みんなの視線が私にあつまる。

「大丈夫ですよブリッツはッ!」


「春姫ちゃん……?」

「ブリッツは……絶対に死にません」


 私は自分にいいきかせるようにいった。

 そうしないと不安におしつぶされそうだったから。


「みんなまで、あきらめるようなことをいわないでください……。じゃないと、私、どうかしてしまいます……」


「そ……そうッスよね」

 ホムラが顔をハッとさせてうなずく。

「うちとしたことが、くらくなっておったな」

「あたしもバカだったし」

 木梨田も中部も反省したようだった。


「みんな、本当にごめんなさい。でも、ブリッツは……ぜったいにいきますから」

 私はもう一度、いいきかせるようにいう。

 ――そして、そのときがきた。


 手術室の扉がひらき、医師が姿をあらわした。

 私たちはいっせいにそちらへむく。


「先生……ブリッツは?」

 千瀬さんがたずねる。

 すると、医者はこうこたえたのだ。

 ――「一命をとりとめました」と。


 その瞬間、私たちのあいだに安堵の息がもれたのだった。

「よかった……ッ。ほんとうに、よかった……ッ」


 私はそういいながら、またもや涙をながした。

 今日なんだか、ないてばかりだな。


「よかったッス……」

「ああ……ほんとうにな」


 ホムラも木梨田も目をうるませて、目頭をおさえている。

 中部はその場にへたりこむと、嗚咽をこらえきれずになきはじめた。


「春姫ちゃん」

 そんななか、千瀬さんが私に声をかける。


「キミの覚悟はよくわかったよ。いまのキミだったら、ためらいなく私を殺せるだろうねー」

「……いえ、そんなことはしません」


 私は首をよこにふった。そして、こうつづける。

「だって……あなたはブリッツにとって大切な人ですので」


「私がかー?」

「えぇ、ブリッツはあなたのことを恩人だといっていましたよ」


 こりゃまいったと、千瀬さんは目を片手でかくした。見られたくないものをながしているのかもしれない。


「じゃあ、ブリッツの恩人からブリッツの恋人へつたえるよ」

 千瀬さんは目をかくすのをやめ、私の目をみつめる。

「ブリッツを……たのむね」

 その目は真剣そのもので、おもわず息をのんだ。


「はい……わかりました」

 迫力に圧倒され、私はただうなずくしかなかった。

 すると千瀬さんは満足そうな顔をして、にっこりとわらうのだった。

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