26
そうしてつれてこられたのは、ゲームセンターだった。
「……これはなんだ?」
ブリッツはおおきな四角い箱を指さす。
それはあきらかに『プリクラ』だった。
「プリクラだけど……しらないの?」
「あぁ、初耳だ」
「もしかして、ゲーセンはじめて」
「ふふっ、よくきがついたな」
じゃあ、なんでつれてきたんだ……。
「で、これってなんなのだ?」
「じゃあ、ついてきて。お金はもっているよね」
そういいながら、私はブリッツといっしょに箱のなかにはいった。
ブリッツにお金をいれてもらうと、プリクラの画面がつく。
「ほら、背景とかえらんで」
「はいけい?」
画面には、さまざまな背景がならんでいた。
ブリッツはどれをえらんでいいかわからずにあたふたしている。
「じゃあ、これとか」
私がえらんだ背景をおしてもらうと、撮影がはじまった。
「は、春姫、我はどうすればいい?」
「と、とりあえず、ポーズを!」
パシャ! パシャ!
とっさのことで、私とブリッツはへんなポーズをとってしまう。
箱からでて、私たちはプリントアウトされた写真をみた。
「ぷっ、あはは……」
「く、くっ……はははは!」
ゲーセン中に、わらい声がこだまする。
なんだか、写真がおかしくて、おかしくて、たまらなかった。
「もう、ブリッツぼうだちじゃん!」
「春姫こそ、なにガニ股になっているんだ?」
はははははっ!
しばらく、爆笑はとまりそうになかった。
「ははは、じゃあ、つぎいこ! つぎいこ!」
「じゃあ、つぎは……あれはなんだ?」
「両替機だよ! それよりもあっちにおもしろいものが……」
私はクレーンゲームのほうへはしっていった。ブリッツもそのあとをおう。
しばらく、たのしい時間がつづいたのだった。
◇
「今日はありがとう」
夕ぐれのなか、私とブリッツはあるいていた。
ブリッツがぎゅっと私の片手をにぎってくれている。
「我こそ礼をいう。春姫との時間、まことに愉快だった」
ほほえむブリッツの顔は夕日にてらされ、とてもきれいだった。
かわいい……おもちかえりしたい。
「さすがに千瀬はご立腹だろうな」
あぁ……そういえば。
自分が党首官邸からにげだしたことをおもいだす。
うわぁ、あれ大丈夫かな……というか、ほぼアウトじゃないか。
すくなくとも、私とブリッツにはなにかしらの罰がくだされるだろう。
「うーん、なんか罰をうけるのもいやだな」
私はつぶやく。
「いっそのこと、ふたりでにげない?」
「にげるって、どこに?」
「どこかとおいところ、日本でもドイツでもソ連でもない場所」
「我は……」
ブリッツは一歩、二歩、三歩とまえへでて、ふりかえる。その表情は赤くなっており、恥じらいをふくんでいることがわかる。
「我は春姫となら、いっしょにいってもいいぞ」
「……!」
――ドクンッ!
……なんだか、胸がはげしくゆれはじめる。
いまのブリッツの表情が過去一番かわいかったのだ。
それに……「いまなんと?」
「我はずっと春姫といっしょにいてたのしかった。だから、春姫がのぞむのであれば……」
――ドクン、ドクンッ!
胎児に内側からけられたときのように、心臓が鼓動をはなつ。
『いっしょにいたい』――そういわれて、ようやく自分のおもいにきがつく。
「ブリッツ……」
「どうしたんだ」
「私もブリッツといっしょにいたい」
「へっ」
「私はブリッツがすき……いや、だいだい……だいすきッ!」
唐突な告白に、ブリッツは茫然自失というかんじで瞼をぱちくりさせていた。やがて、その意味を理解したらしく、目をまるくして口に手をあてた。
「春姫……」
彼女は顔をさらに、紅潮させる。
「本当に、ブリッツはかわいいな」
さきほどの突発的な感情が、ふたたび全身にうずまいた。
いがいがする感情にたえきれなくなり、また彼女にせまってしまう。
「キスしたい」
「な、なにをほざいている?」
「私はブリッツとキスがしたい」
「からかうのも大概に……」
「私は本気だよ」
そういいながら、自分の顔をちかづけた。
「……やッ!」
するどい声が耳につきささる。私はあまりのことに唖然としてしまう。
一呼吸いれて、彼女は私の耳元でささやいた。
「人がいるとことじゃ、やだ……」
◇
公園のトイレ。
「ここだと誰もいないよ」
そういって、私はブリッツとともに個室にはいっていった。
個室は意外にせまく、ふたりもはいるとぎゅうぎゅうだった。
「ねぇ、ブリッツ。もう、いいでしょ?」
「ま、まって……我にも心の準備が」
「……もう、ムリ」
プルンッとやわらかい感触が私の唇を侵蝕する。
キスというにはあまりにつたない、ふれるだけのキス。
それだけで幸せが、全身を駆けめぐった。
「はぁ……はぁ……」
しばらくして唇と唇がはなれると、彼女は恥ずかしそうに眼をそらした。
「ブリッツ……すき、だいすき」
「……我も」
「えっ?」
「我も……春姫のことが……だいすきだ」
彼女はてれたように、顔をそむけながらいった。
その瞬間、私の頭のなかでなにかがはじけるのをかんじる。
「ねぇ、ブリッツ……」――視線が彼女の顔を捉える。
「私はブリッツにすべてをあげる。だから、ブリッツも私にすべてをちょうだい」
「もちろんだ。わ、我も春姫がほしい」
彼女の暖かさに包まれながら、私は愛へ堕ちていった。
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