25
ぜぇぜぇ……はぁ……はぁ……。
路地裏にきた私たちふたり。
ブリッツはチラチラとそとの様子をうかがって、嘆息する。
「もはやヤツらの姿形も影もない。まけたぞ」
「どうして、私を?」
そうきくと、唐突にブリッツは両手で私の両頬をおした。
自然、私の顔がタコのようになる。
なに、するんだよ……。
「悲惨なそなたの表情をみていたら、体がかってにうごいたんだ」
「それだけで……閣下にさからったの?」
頬をおす両手をはがしながら、私はきいた。
「むぅー、いくら千瀬がいるとはいえ、さすがにまずかったか……?」
手を自分の顎へもっていくと同時に、頭の猫耳の片方がおれた。
ブリッツ――
人形のように造形がいい顔に、なめらかな首筋。
「……」――なんだか、かわいい。
姉や両親が死んだという虚無感は、私の心におおきな穴をあけた――
それをうめるように、突発的な衝動がみちあふれていく。
「ブリッツ……ブリッツ……!」
せまるようにブリッツにちかづいて、自分の顔を彼女の首筋にうめた。
ただようあまいかおりが、私の鼻孔をしげきする。
「ちょッ……なにをするッ!」ブリッツがたじろいだ。
「いっしょにいたい……というか、いっしょにいさせて」
「ちょい、ちょいちょい……」
ブリッツはすこしだまりこくる。しばらくして……。
「この甘えん坊さんめ」とくっつく私をはなした。
「我とともにいたいというのはうれしいが、我にも心の準備が……」
ぎゅるるる……。
誰かの腹の音が、彼女の台詞をさえぎった。
ポカンとして、自分の腹をみる。
朝、しっかりたべられなかったせいか、おなかがすいたのだった。
「ふふ……」わらい声がきこえてくる。
「ふははは!」
ブリッツが腹をかかえて、わらっていた。
「なにがおかしいの?」
ムスッとする私を、
「まずは、腹になにかをいれよう。はなしはそれからだ」
ブリッツがお食事にさそってくれたのだった。
◇
「あんむッ」
日が天頂からすこしかたむいたころ。
カフェのなか、私とブリッツはむかいあって、ケーキセットをたしなんでいた。
私はイチゴのショートとコーヒーのセットで、ブリッツはモンブランと紅茶のセットだった。
というか昼食にケーキって……。
そんな思考が脳をよぎったものの、おいしいからまぁいいか。
「美味だ、美味美味」
おいしそうにモンブランをほおばるブリッツの顔を見て、なんだかほんわかしてくる。
「なんだ春姫。もしかして、モンブランをたべたかったのか?」
「ちがうよ。ただブリッツの顔をみてるとなごむなぁって」
「どういう意味だ? そんなに我の面構えが滑稽なのか?」
「いや、そういうわけでも……」
ひらいた口に、なにかをおしこまれる。
こうばしい栗の味……モンブランだ。
口内でゆっくり咀嚼し、ごっくんとのみこむ。
「おいしい」
「そうだろう、そうだろう?」
正直に感想をのべると、ブリッツはその姿に不釣合いな、ゆがんだ笑顔になる。
ムリにそんな顔にならなくていいから。
「それにしても、おもしろいよね」
なにげなく言葉がもれでてくる。
「であって数日なのに、ここまでなかよくなれるって」
ゴマやクマと本当の友だちになるのにも、もっと時間がかかった。
「なにをいっておる?」
ブリッツは不思議そうに、首をかしげた。
「我が春姫のお目にかかったのは、はるかまえの時分だろう?」
「……えっ、どっかであったけ?」
「ほら、そなたが上曾の外道にやられ、たおれていたときだ」
それって……あのときか!
私の手が師匠に破壊されたあのときか!
じゃあ、やっぱり。そのときみたブリッツは幻覚とか夢ではなく、本物だったんだ。
「やっぱり、ブリッツだったんだ」
「ふん、我でないならなんだとおもってたのやら」
ニタニタしながら、ブリッツは口に紅茶をながしこむ。
「ところで、なんであそこにいたの?」
「もちろん、任務だ」
「任務?」
「ああ、それはな……」
なんでも、まえまえから師匠にあやしいうわさがたっていたらしい。
その内容は、深夜、師匠がかりていたアパートの部屋から打撲音がきこえるとか、日常的に木刀を携帯しているとか、なんらかの事件につながりそうなものばかりだった。
師匠とテロのかかわりをうたがった佩刀課は、ブリッツを調査におくったらしい。
その最中に師匠が私をおそったため、ブリッツは私をたすけ、師匠を逮捕したらしい。
「まぁ、結果はしってのとおり、あの時点では上曾はテロとはなんのかかわりもなかった」
「ところで」私は疑問をなげかける。
「けっきょく、うわさの真相ってなんだったの?」
ブリッツはすこしこまった表情をうかべ、逡巡したのち。
「春姫をおそう練習をしていたんだ。毎晩、自分の部屋で春姫の写真がはられたマネキンをなぐっていたらしい」
しらないほうがよかった情報をいってきた。
「なんか、もうしわけない」
私のテンションがだださがったことをさっしたのか、ブリッツがペコっと頭をさげる。ヘアバンドの耳もまえにおれた。
「いいよ、私からきいたことだし……」
そうはいったものの、さがったテンションをもどすには時間がかかりそうだった。
「よしッ、春姫!」
唐突に、彼女はテーブルに両手をつき、身をのりだす。
「今日はあそぶぞ!」
「は、はい?」
「ついてくるがいい」
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