13

 チューブこと中部十花(ちゅうぶとうか)。


 国防軍の軍人で、軍のなかでもそこそこの地位をもつ、いわばおえらいさんらしい。

 千瀬さんのはなしによると、その中部とやらはブリッツにお熱だそうで……。


 翌日。

 千瀬さんたちが外出して、すこしたったころ。


 私とブリッツは和室で、おそめの朝ごはんをたべていた。

 献立は冷凍食品のきつねうどんと沢庵。


「まったく、あんな俗物の相手をしなくてはならないこっちの身にもなってくれ」

「そんなにイヤな人なの?」

「イヤというか、うとましいだな。はい、あーん」


 それはイヤってことだよ。

 うどんを口にいれられながら、私はおもった。


「あってみたらわかるが、ヤツは……」

 ブリッツがそういいかけたところに。


 チーン――チャイムが和室中にひびきわたる。

「この音は……!」

「エレベーターの……!」

 私とブリッツはゆっくり――おなじタイミングで、和室の入り口をむくと……。


「うにぃぁぁぁ!」

 奇声とともに、軍服の女がとびだしてきた。

 女はブリッツをもちあげると、頭をなでまわし、頬ずりをはじめる。


「やめよ、この痴女軍人が!」

「うぅ、かわいすぎぃ……妹にほしいし!」


 またたくまに、ブリッツはもみくちゃにされて、ビクッビクッとふるえている。


「うぅ……たすけてぇ、春姫ィ」

 頭の猫耳の片方がペコッとおれた。


「うん、はるきぃ?」

 女の目がこちらにむけられる。

 私はウフフと苦笑って、手をふった。


「ふぅん、はなしはきいているし。きみがイペタムにねらわれている女子高生でしょ?」

「は、はい。仁禮春姫といいます」

「あたしは西日本国防軍の中部十花だし。軍事称号は少佐な」

 あいにくだが、軍隊のなんやかんやはよくわかっていない。


「少佐とあろうお方が婦女子に乱暴をはたらくとは……世もすえだな!」

 ブリッツがバッと中部を指さす。

「これは乱暴じゃなくて愛だし!」


 また中部がブリッツをもみくちゃにしようとする。

「や……やめよ!」

 このままじゃらちがあかない。


 そうおもい、中部とブリッツのあいだにはいった。


「あの、中部さん、用事とはなんでしょうか?」

「あっ、そうだったし!」

 中部がブリッツをはなして、勝手に座布団にすわった。


「今日の用事はな」

「はい」

「それはな……」

 中部の口角がニッとあがる。


「もったいぶってないでさっさとはなせ」

 ブリッツが不機嫌そうに、足先で床をたたく。


 それが合図になったかのように、中部がふところから短刀をだした。

 うん、短刀……って!


 まばたきで瞼をとじ――あけたら、

『鹿島神傳直心影流――』

 すぐ目前に、中部がいた。


『――八寸(はっすん)の延金(のべかね)』

 するどい、いたみが首をかけぬける。


 私はそのまま畳にたおれこみ、ねむるように意識をうしなった。

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