11

 警視庁の地下。

 そこには和室だけでなく、倉庫や温泉まで完備されていた。

 もはや、高級ホテルだな、おいッ!


 その廊下を――


「ふんぬぅぅ!」

 ――私は段ボールを背おって、いききしていた。

 手をつかうことができないので、背負子(しょいこ)を装着して背おっている。


「ほら、がんばるッス春姫ちゃん」

 となりをみると、四つのダンボールをらくらくもったホムラがとおりすぎていった。そのうしろから、千瀬さんや木梨田もつづく。


 うぅ……ふたつでもこんなにおもいのに、なんで三つも……。

 ――というか、なんで私は雑用をやってんだ。


 そんなおもいが脳をよぎったが、すぐうちけす。

「しかたがないかぁ……まもってもらっているんだし」


 いや、しかたなくもないのか。かくまわれている被害者が警察の雑用だなんて前代未聞だ。

「助太刀するぞ」

 突然、私のダンボールのひとつがヒョイッともちあげられた。


「そなたは賓客ゆえ、あまりムリをするでない」

 そこには五つのダンボールをもちあげているブリッツがたっていた。

 どうやら、力をかしてくれるらしい。


「あ、ありがとう……」

「よいよい」


 ブリッツの双眸が三日月のように、ほそくなる。

 あいもかわらず、かわいらしい瞳だ。心がキュンとしてしまう。


 ここにきてから、ずっとそんな調子だった。

 ブリッツと顔をあわせるたびに、へんに緊張してしまう。


 なんなんだ、このキモチ?

 晩飯になにか、もられたか。


「いかがした?」

 ブリッツが首をかしげる。

「いや、な、なんでも」


 ブリッツから目をそらして、そそくさと倉庫へむかった。



 時はさかのぼり――

 私がテロリストの標的になっていることをしった日。


「けっきょく――これから私、これからどうなるんですか?」

 そのといかけにこたえたのは千瀬さんだった。


「とりあえず、戦闘は私たちでやるよ。春姫ちゃんはそうだなー……ここにいるあいだヒマだろうから、いろいろと捜査に協力してもらうよ」


「協力ですか……?」

「たとえば、荷物はこびとか……資料整理とか……」

「雑用じゃないですかッ!」

 まぁ、捜査に関係あるかないかはおいといて。


「私、手がうごかないんで、そういうのはちょっと……」

「ヌフフ、大丈夫。最近のパソコンは音声認識もついているし、ほかの仕事も工夫次第でなんとかなるよー」


 ふと、そこできがつく。

 この人、私が雑用をしたがっている前提ではなしをすすめていないか?


「もしかして、ここにいるのが気疎いのか?」

 となりにいたブリッツがかなしそうな目をこちらへむけていた。

 どうやら千瀬さんへの疑念が顔にでてしまっていたらしい。


「いや、そういうことじゃないけど……」

 そういうと、ブリッツの顔がパァッとあかるくなる。

「よかった! では、これからもよろしくたのむぞ」


 そういって、私の手をにぎる。

 うぅ……かわいすぎて、せつないッ!


 ふと、視線にきづく。

 私とブリッツのやりとりをみていたホムラがニヤニヤしていた。


「ふふふ、春姫ちゃんって、案外わかりやすいッスねぇー」

「え?」


「べつにかくすことないッス。僕は応援するッスよ? うん、がんばれー!」

 なにをいっているんだこの人は。てか、応援するってなにを――?


「ないしょー、なんでもないよーッス」

 ホムラはわざとらしく、首をよこにふる。


「こら、ホムラ。春姫をからかうのではない」

「はーい」


 意外にもホムラはブリッツの言葉に従順だった。


「じゃ、がんばって」と私の耳にささやくと、和室のそとへでていった。

 私は首をかしげながら、そのうしろ姿を見おくる。

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