11
警視庁の地下。
そこには和室だけでなく、倉庫や温泉まで完備されていた。
もはや、高級ホテルだな、おいッ!
その廊下を――
「ふんぬぅぅ!」
――私は段ボールを背おって、いききしていた。
手をつかうことができないので、背負子(しょいこ)を装着して背おっている。
「ほら、がんばるッス春姫ちゃん」
となりをみると、四つのダンボールをらくらくもったホムラがとおりすぎていった。そのうしろから、千瀬さんや木梨田もつづく。
うぅ……ふたつでもこんなにおもいのに、なんで三つも……。
――というか、なんで私は雑用をやってんだ。
そんなおもいが脳をよぎったが、すぐうちけす。
「しかたがないかぁ……まもってもらっているんだし」
いや、しかたなくもないのか。かくまわれている被害者が警察の雑用だなんて前代未聞だ。
「助太刀するぞ」
突然、私のダンボールのひとつがヒョイッともちあげられた。
「そなたは賓客ゆえ、あまりムリをするでない」
そこには五つのダンボールをもちあげているブリッツがたっていた。
どうやら、力をかしてくれるらしい。
「あ、ありがとう……」
「よいよい」
ブリッツの双眸が三日月のように、ほそくなる。
あいもかわらず、かわいらしい瞳だ。心がキュンとしてしまう。
ここにきてから、ずっとそんな調子だった。
ブリッツと顔をあわせるたびに、へんに緊張してしまう。
なんなんだ、このキモチ?
晩飯になにか、もられたか。
「いかがした?」
ブリッツが首をかしげる。
「いや、な、なんでも」
ブリッツから目をそらして、そそくさと倉庫へむかった。
◇
時はさかのぼり――
私がテロリストの標的になっていることをしった日。
「けっきょく――これから私、これからどうなるんですか?」
そのといかけにこたえたのは千瀬さんだった。
「とりあえず、戦闘は私たちでやるよ。春姫ちゃんはそうだなー……ここにいるあいだヒマだろうから、いろいろと捜査に協力してもらうよ」
「協力ですか……?」
「たとえば、荷物はこびとか……資料整理とか……」
「雑用じゃないですかッ!」
まぁ、捜査に関係あるかないかはおいといて。
「私、手がうごかないんで、そういうのはちょっと……」
「ヌフフ、大丈夫。最近のパソコンは音声認識もついているし、ほかの仕事も工夫次第でなんとかなるよー」
ふと、そこできがつく。
この人、私が雑用をしたがっている前提ではなしをすすめていないか?
「もしかして、ここにいるのが気疎いのか?」
となりにいたブリッツがかなしそうな目をこちらへむけていた。
どうやら千瀬さんへの疑念が顔にでてしまっていたらしい。
「いや、そういうことじゃないけど……」
そういうと、ブリッツの顔がパァッとあかるくなる。
「よかった! では、これからもよろしくたのむぞ」
そういって、私の手をにぎる。
うぅ……かわいすぎて、せつないッ!
ふと、視線にきづく。
私とブリッツのやりとりをみていたホムラがニヤニヤしていた。
「ふふふ、春姫ちゃんって、案外わかりやすいッスねぇー」
「え?」
「べつにかくすことないッス。僕は応援するッスよ? うん、がんばれー!」
なにをいっているんだこの人は。てか、応援するってなにを――?
「ないしょー、なんでもないよーッス」
ホムラはわざとらしく、首をよこにふる。
「こら、ホムラ。春姫をからかうのではない」
「はーい」
意外にもホムラはブリッツの言葉に従順だった。
「じゃ、がんばって」と私の耳にささやくと、和室のそとへでていった。
私は首をかしげながら、そのうしろ姿を見おくる。
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