9

 ホテルでチェックアウトをすませ、電車にのって高校へむかう。高校のちかくに『母子里大前』という駅があって本当によかった。


 そのあいだ、ブリッツに昨日の女のことやブリッツの刀のことをきいたが、「いま知るべきではない」との一点張りだった。


 携帯をみれば、姉から一〇〇件以上の留守電とメールがはいっていた。私はメールで謝罪文とクマの家にあそびにいったというウソをおくって、心のなかで土下座をした。


 高校にはいると、おおくの視線をむけられるようになった。


「みて、ブリッツさんがきたよ……!」

「あいもかわらず、キレイだわ!」


 生徒たちはブリッツを見て、きゃーきゃーと金切り声をあげている。


「あれ、となりにいるのって……」

「仁禮春姫じゃん……あの三バカの」


 えぇ……。となりにいる私もまきぞえをくらう。

 というか、三バカってなんやねん。私とゴマとクマのことか?

 なんだか、ものすごくイラっとする。


「あの……」

 どうしてもブリッツにきいておきたいことがあった。


「なんだ」

「昨日の女みたいなヤツはこないんですよね?」


 昨日の女みたいな――本気で私を殺しにくるヤツが学校にきたらめいわくだし、ヘタしたらゴマやクマいも被害がおよぶかもしれない。


「そこは、安心せい」ブリッツは自信たっぷりにうなずいた。

「『やつら』は女が冥土へ往生したことにきがついていない。だから、あらたな刺客がくることもないだろう」


『やつら』――? またもや謎がふえた。


「あの、やつらって……」

 プルルルル……。

 バイブ音。音のでどころはブリッツのポケットからだ。

 ブリッツは携帯をとりだし、画面を見るなり、うなずいた。


「まことにすまん。用事ができた」

「用事ですか?」


「とりあえず我の朋輩をそなたのもとへおくることにした。放課後、朋輩がそなたをみちびいてくれるだろう」


 ――朋輩? 誰がいるのか?

 まわりを見ても誰もいない。そうしているうちにブリッツがいなくなっていた。

 はぁ……嘆息がもれる。


「まぁ、いいか」

 私はわからないまま、教室へむかった。



「ブリッツさんと友だちになったんだぁ!」

 教室にはいるやいなや、ゴマが好奇の視線をむけてきた。


「昨日、はなしかけたのって、もしかしてナンパだったわけ?」

 クマもゴマのとなりにいた。


「いやちがうし……道の途中でたまたまあって……」


 というウソをついてみたものの、ふたりにはつうじないらしい。

 ニタァとえみをうかべ、私にすりよってくる。


「ひゅーひゅー!」

「あした赤飯たいてくるよぉ」

 まったくもう、こいつらは……。


「……宿題うつさせてやらねぇからな!」

「あっそうだ!」

 ゴマは鞄から、ノートをだす。


「ごめん、今日も宿題をうつさせて~」

「私も~」

 クマがゴマに便乗する。


「えぇ……今日もぉ」

 そうつぶやいたとき、あることにきがつく。


「……私も宿題やってきてないわ」

「……え」

 まぁ、昨日はいろいろあったからね……。

 


 放課後。

 ちょうど、席からたったときだった。


 ぼぁん。

 きゅうに煙があがったと思ったら、私の目前――机のうえに人間があらわれた。

 クラウチングスタートのポーズをとった小柄な女の子。


 う、うわぁぁ! 私は絶叫してしまう。

 そりゃそうだろ。いきなり、目のまえに人があらわれたら誰だって絶叫するって。


 女の子はゆっくり顔をあげて、私を見すえる。

「あなたが仁禮春姫ッスか?」

「えっ……えぇと……」――誰?


 とまどう私を横目で見ながら、女の子は机からおり床に足をつけた。

 黒髪をポニーテールにまとめ、おうとつひとつない肉体は黒装束をまとっている。

 全体的に忍者のように見える。


「おどろかせちゃったッスね? ごめんッス」

 あやまるわりには、たいして謝意がかんじられない。


「僕はブリッツの友だちの、阿部淵(あべふち)ホムラ」

 じゃあこの子が、ブリッツの朋輩とやらか。


「わかりました。よろしくおおねがいします」

「よろしくッス、春姫ちゃん」

 おおぃ、おまえもしたの名前でよぶのかよ。


「じゃあ、僕についてきてくださいッス。ブリッツのもとへ案内するッスよ」

「わかりました」


 あるきだすホムラの背についていく。

「ちょっと、はるっち!」

 クマがひきとめてきた。


「ブリッツさんだけじゃなくて、忍者ともつきあってんの!?」

 はぁ? ――ピキッと自分の頭のなかでなにかがキレるのをかんじる。


「えぇ、それって二股ぁ? はるっち罪じゃん」

 ゴマものってくる。

 私はもう二度とふたりに宿題をみせないことを決意しつつ、ホムラのあとをおった。

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