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 いまから、七九年まえ――


 ドイツ、アメリカ、ソ連の枢軸国と、日本、イギリス、フランスの連合国が激突した二次大戦が終戦をむかえた。


 敗戦国となった日本は枢軸国によって、ふたつに分断された。


 東にはアメリカ、ソ連により、日本王国(通称・東日本)が建国され、

 西にはドイツにより、大ゲルマン太平洋共和国(通称・西日本)が建国された。


 ふたつにわかれた日本はまじえることなく、現在にいたるまで独立をたもっている。



 仁禮春姫が西日本大会に優勝してから、二年の月日がたった……。



 地獄をはしるジェットコースターのうえ、ぼろきれをまとった小人たちに挽肉(ひきにく)にされる、そんな夢を見ていた。


 完全に完璧にそれは悪夢なのだが、私、仁禮春姫にとっては悪い夢じゃなかった。

 なにせ、今日はあの夢を見なかった。


 ――師匠とデートして、竹刀でなぐられる。


 最近はその夢しか見ていない。

 正直いって、寝るのがいやになる。


 けっきょく――あのあと。


 道場にいたはずの私は、病院のベッドで目をさました。

 なんでも、道場で気絶しているところを、かけつけた救急隊員がたすけてくれたらしい。


 師匠は暴行罪で逮捕され……どうなったかはわからない。

 金髪の女の子にかんしては、みんなが口をそろえて「そんな子いなかった」といっていた。

 もしかすると、あのときみた女の子は幻覚だったのかもしれない。


 すこしまえまで、そうおもっていた。


 寝床のすぐよこにあるカーテン。

 その隙間からかすかな光がさしこみ、薄暗いこの部屋を白い軌跡で両断している。

 唯一、光の斬撃からまぬがれた壁にかけてある時計は午前六時三十分をさしていた。

 まだまだ、高校へいくには余裕があるなぁ。


「ふぁぁ……」

 きのぬけるようなあくびをこぼしつつ、おきあがる。

 ふと、鏡が目にはいった。


 鏡のなかの自分。

 顔や体の打撲跡はすっかりなおり、キレイになっている。


 しかし――自然、視線が手のひらにおちる。

 両手とも指がまえにまがったまま微動だにしない。


「あら、おきてたのね」

 ガチャと扉がひらき、姉がはいってきた。シャツと短パンのラフな格好をしている。

「まぁね」

「そう。ねむれた?」

「まぁまぁ、かな」


 他愛もないはなしもそこそこに。

 姉はリモコンに手をのばすと、ピッとテレビをつけた。

 画面にうつったアナウンサーがもくもくとニュースをよみあげている。

『独ソ戦激化。独総統、全戦力を戦線に投入』――

『我が国からドイツ軍が完全に撤退』――

『東日本の国王が崩御』――

 姉はテレビを見ながらクシをもって、私の髪をとかしはじめた。


「いつもありがとう」

「いいのよ」


 師匠の打撃は頭や体よりも手に集中していたらしい。私の手の骨は粉々になり、再生した現在でも、まったくうごかない。


 ――手がつかえないことは不便だ。


 いままでできていた大半のことが、できなくなった。

 それこそ、誰かのたすけを借りないと、日常生活もままならないのだ。


「おわったよ」

 髪から寝癖がなくなり、キレイになった。

「今日、学校いけそう?」

 姉が笑顔できいてくる。

「うん」


 そうこたえると、姉が私の頭をやさしくなでる。

 さすが優秀な姉。なにひとつ文句をいわず、私の世話をしてくれる。いまなら両親が贔屓するのもわかるきがした。


「あぁ、春姫。私はいつでもあなたの味方だからね」

「うん」

「だって、春姫は私の春姫だもん」

 姉は私をだきしめる。


 んもぅ……たまにこういうスキンシップがつよいところがあるんだから。

 そのあと制服もきせてもらい、朝ごはんをたべて、家をでた。

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