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「おまえには剣の才能がある」


 中学校にはいったばかりのころ、師匠にそういわれた。


 私には優秀な姉がいた。


 親は姉ばかりをほめ、私をあんまりほめなかった。

 だから、その言葉はほんとうにうれしかった。


 それから、師匠が顧問だった剣道部にはいることとなった。


 師匠のいうとおり、私には才能があったらしい。出場した大会すべてで、私は優勝したのだ。

 そのことはすぐ、世間にひろまった。


 連日マスコミからとりあげられ、私は『天才剣道少女』といわれるまでになった。

 べつに地位や名誉とか、そんなのはどうでもよかった。私はただ師匠の期待にこたえられてうれしかった。



 西日本大会の翌々日。

 私は駅前広場のベンチにすわっていた。


 いきいきとした陽射しと、自由な風にさらされながら、いままでかんじたことがないぐらいの、心地のよい緊張をおぼえていた。

 決勝戦がおわったのち、ダメもとで師匠をデートにさそったら、なんとOKをもらったのだ!


 あぁ、三週間前からプランをねったかいがあったなぁ。

 歯だって何度もみがいたし、下着だって派手なものにしてみた(出番があるかは分からないが……)。


 脳内シチュエーションも完璧。

 東日本がせめてくるとか素っ頓狂なことがおこらないかぎり、なにがあっても大丈夫……な自信がある。

 そんな童貞まるだしの心境で、のぞんだ本日。


「春姫」

 ききなれた声にふりかえると、そこには師匠の姿があった。

 たかい背に、すらっとしたスタイル。そしてなによりも、きれいな顔だちが目をひきつける。

やっぱりすきだなぁ……。


 彼女の顔をみているだけで、胸がドキドキする。

 そんな私のおもいなどしるよしもない彼女は、いつもどおりのクールな表情でこちらをみていた。


「はやいなぁ。あとからきた春姫に『私もいまきたところだから』といいたかったんだけど」

「す、すいません!」

「べつにあやまらなくてもいい。ほら肩の力ぬけよ」


 師匠が私のとなりにすわってくる。

 ふんわりとあまいかおりが、鼻をつつみこむ。

 ドキドキッと心臓がたかぶってしまう。


「おいおい顔が赤くなってんじゃねぇか」

「その……師匠がキレイすぎて」

「おまえもめっちゃキレイだよ……」

 師匠が腰をあげて私のまえにたった。


「今日はどこにいくんだ。プランは完璧だろ?」

「はい! かかか完璧ですぅ!」

 師匠の手が私にさしだされる。


「楽しみだ。じゃあ、エスコートしてくれよ」

 これって……もしかして。


 私たちは手をつないで、広場から出発した。

 その手のやわらかい感触に感動をおぼえる。

 まさか、師匠とお手々をつないでデートする日がくるなんて……。

 駄目だ……こみあげてくる熱いものをかんじてしまう。


 いままでいきていてよかったーーッ!


 おもわず、心の中でさけんでしまった。


 そのあと、夢のような時間がつづく。

 師匠のすきだという映画を見にいったり――

 シャレオツな雑貨品店や中古屋を見てまわったり――

 いっしょにクレープをたべたり――


『デートとはこんなにも楽しいものだったのか』とつよく実感させられた。

 昼食は、駅前のファミレスでとった。

 師匠はいつもどおり平然とした表情だったが、その耳はすこし赤くなっている。

 そんな彼女のかわいらしいすがたをみていると、胸がきゅーっとしめつけられるようなかんじになる。


 なんだかんだで、あんなに青かった空は、もうすっかり黒く変色していた。

 さみしいが、刻一刻とおわりの時はちかづいているということらしい。


「なぁ、春姫」

「なんでしょうか?」


 人がにぎわう駅前のどおり、師匠は提案してきた。


「最後に道場にいかないか?」

「道場ですか?」


「ちょっと、おまえに見せたいものがあってな……」


 おっ、なんだろう……まさか、サプライズかぁ?

 たかまる期待のなか、師匠とともに学校の道場へむかった。

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