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「おまえには剣の才能がある」
中学校にはいったばかりのころ、師匠にそういわれた。
私には優秀な姉がいた。
親は姉ばかりをほめ、私をあんまりほめなかった。
だから、その言葉はほんとうにうれしかった。
それから、師匠が顧問だった剣道部にはいることとなった。
師匠のいうとおり、私には才能があったらしい。出場した大会すべてで、私は優勝したのだ。
そのことはすぐ、世間にひろまった。
連日マスコミからとりあげられ、私は『天才剣道少女』といわれるまでになった。
べつに地位や名誉とか、そんなのはどうでもよかった。私はただ師匠の期待にこたえられてうれしかった。
◇
西日本大会の翌々日。
私は駅前広場のベンチにすわっていた。
いきいきとした陽射しと、自由な風にさらされながら、いままでかんじたことがないぐらいの、心地のよい緊張をおぼえていた。
決勝戦がおわったのち、ダメもとで師匠をデートにさそったら、なんとOKをもらったのだ!
あぁ、三週間前からプランをねったかいがあったなぁ。
歯だって何度もみがいたし、下着だって派手なものにしてみた(出番があるかは分からないが……)。
脳内シチュエーションも完璧。
東日本がせめてくるとか素っ頓狂なことがおこらないかぎり、なにがあっても大丈夫……な自信がある。
そんな童貞まるだしの心境で、のぞんだ本日。
「春姫」
ききなれた声にふりかえると、そこには師匠の姿があった。
たかい背に、すらっとしたスタイル。そしてなによりも、きれいな顔だちが目をひきつける。
やっぱりすきだなぁ……。
彼女の顔をみているだけで、胸がドキドキする。
そんな私のおもいなどしるよしもない彼女は、いつもどおりのクールな表情でこちらをみていた。
「はやいなぁ。あとからきた春姫に『私もいまきたところだから』といいたかったんだけど」
「す、すいません!」
「べつにあやまらなくてもいい。ほら肩の力ぬけよ」
師匠が私のとなりにすわってくる。
ふんわりとあまいかおりが、鼻をつつみこむ。
ドキドキッと心臓がたかぶってしまう。
「おいおい顔が赤くなってんじゃねぇか」
「その……師匠がキレイすぎて」
「おまえもめっちゃキレイだよ……」
師匠が腰をあげて私のまえにたった。
「今日はどこにいくんだ。プランは完璧だろ?」
「はい! かかか完璧ですぅ!」
師匠の手が私にさしだされる。
「楽しみだ。じゃあ、エスコートしてくれよ」
これって……もしかして。
私たちは手をつないで、広場から出発した。
その手のやわらかい感触に感動をおぼえる。
まさか、師匠とお手々をつないでデートする日がくるなんて……。
駄目だ……こみあげてくる熱いものをかんじてしまう。
いままでいきていてよかったーーッ!
おもわず、心の中でさけんでしまった。
そのあと、夢のような時間がつづく。
師匠のすきだという映画を見にいったり――
シャレオツな雑貨品店や中古屋を見てまわったり――
いっしょにクレープをたべたり――
『デートとはこんなにも楽しいものだったのか』とつよく実感させられた。
昼食は、駅前のファミレスでとった。
師匠はいつもどおり平然とした表情だったが、その耳はすこし赤くなっている。
そんな彼女のかわいらしいすがたをみていると、胸がきゅーっとしめつけられるようなかんじになる。
なんだかんだで、あんなに青かった空は、もうすっかり黒く変色していた。
さみしいが、刻一刻とおわりの時はちかづいているということらしい。
「なぁ、春姫」
「なんでしょうか?」
人がにぎわう駅前のどおり、師匠は提案してきた。
「最後に道場にいかないか?」
「道場ですか?」
「ちょっと、おまえに見せたいものがあってな……」
おっ、なんだろう……まさか、サプライズかぁ?
たかまる期待のなか、師匠とともに学校の道場へむかった。
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