第25話 魔王封印

戦場は暗雲が立ち込め、冷たい風が吹き荒れる荒れ地。聖十字騎士団はその中央に陣を構え、鋭い眼差しで前方を見据えていた。遠くから響く不気味な唸り声と共に、魔王の軍勢が現れる。彼らは魔界の闇を纏い、その姿は恐怖そのものだ。


聖十字騎士団のリーダー、シエルはその場に立ち、輝く剣を手にしていた。彼の中性的な美貌に一瞬、団員達の視線が集まる。その瞬間の静けさを破るかのように、シエルは剣を高く掲げ、力強く叫んだ。


「いいか、テメェら。我々は天使の加護を受けている!だからビビるんじゃねぇ、魔王を討ち、今こそ世界に平和を取り戻そうぜ!」


ジュディはその後ろで冷静に戦況を見つめ、両手を広げて防御の魔法陣を展開する。彼女の知性と力は、仲間たちに安心感を与えた。


「シエル、私はここで全力を尽くします。あなたは魔王に集中してください」


ミッシェルは巨大な盾を構え、前線に立ちふさがる。彼の力強い姿は、敵の猛攻を跳ね返す壁となった。


「ガッハッハッハッ!さあ来い、どんな攻撃もこの盾で防いでやるわい!」


魔王の軍勢が猛攻を仕掛けてくる。シエルは剣を閃かせ、敵を次々と切り倒していく。ジュディの防御魔法が仲間たちを守り、ミッシェルの盾が敵の攻撃を跳ね返す。戦場は激しい戦いの舞台と化した。


「聖十字騎士団もなかなか、やるでやんすね」


竜の鱗の鎧を纏った魔王軍の幹部のひとり、アッシュが空から切り込んでくる。ミッシェルがその攻撃を何度も盾で防ぐ。


「ガッハッハッハッ!お主との戦いはいつも楽しいぞ!」とミッシェルは勢いよく盾を振り回す。


「いや、オレはあんたと戦うと疲れるから、今日で最後にしたいでやんす…」困り顔のアッシュだが、口元には微笑みが浮かび、言葉とは裏腹に楽しそうだ。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…」


突如、闇の中から稲光る黒い雷と共に一際巨大なオーラを放つ陰が現れる。魔王だ。彼の圧倒的な存在感と力は、一瞬にして場の空気を変えた。魔王は笑みを浮かべ、「フッ、貴様らごときが私を倒せると思っているのか?」と嘲笑する。


シエルはその言葉に動じることなく、剣を握りしめた。「ケッ!テメェの命はオレが貰うぜ!天使の加護を受けし我が剣よ、コイツを断ち切りやがれ!」彼は魔王に向かって突進し、激しい剣戟が繰り広げられる。


魔王軍と聖十字騎士団との攻防は激戦の一途を辿る。戦場は嵐のような混沌に包まれていた。剣と剣がぶつかり合う金属音が絶え間なく響き、火花が散る。両軍は一進一退を繰り返し、誰もが息を飲んでその攻防を見守っていた。


シエルが鋭い一撃を繰り出すと、魔王はそれを巧みに受け流す。まるでダンスを踊るかのように、両者の動きは鮮やかで精緻だ。一方が攻撃に出れば、もう一方は即座に防御し、次の瞬間には反撃に転じる。


矢が空を切り裂いて飛び交う中、聖騎士団たちは盾を構え、命を賭して魔王軍の猛攻をしのいでいた。どちらの側も決して引かず、均衡は崩れない。誰もが全力を尽くして戦っているが、勝敗の兆しは一向に見えてこない。


攻撃が押し戻されるたびに、両軍の士気は揺らぐことなく、再び猛然とぶつかり合う。砕けた甲冑の破片が散らばり、血と汗が大地に染み込んでいくが、戦いはまったく終わる気配を見せない。


まるで無限のループに陥ったかのような戦場では、どちらもわずかな隙を見逃さず、次々と戦略を変えて挑んでいた。しかし、どれだけ試みても決定的な一手を打つことはできず、攻防は続く。激しい戦いの熱気が空気を重くし、勝敗の行方は誰にも分からないままだった。


しかしその均衡は崩れ始める。シエルが少しずつ魔王に押され始める。


「シエル!」シエルを心配するジュディの声が響く。


「くっ…もうここで使うしかねえ…」


追い詰められたシエルは戦いの中で、大天使から授かった指輪を取り出した。その指輪は聖なる光を放ち、魔王に向かって力を発する。


「この指輪に込められた力で、テメェを封印する!」


シエルが指輪を掲げ、魔王に向けてその力を解き放つ。瞬間、眩い光が戦場を包み込む。魔王は驚愕の表情を浮かべ、「くっ…このひかりは天使の…」と呟くが、その声も掻き消される。光は全てを包み込み、その場にいた全員が光の中に消えた。


---


「うわぁああっ!!」と雷太は飛び起きた。その顔は真っ青で、全身は汗でびっしょりと濡れている。


「お兄ちゃん?」心配そうに雷太の顔を覗き込む美鎖。「寝てる間、ずっとうなされてたんだから…」その声には不安がにじんでいる。


「ごめん、大丈夫だよ。変な夢を見ただけだから…」雷太は妹を安心させようと笑顔を作った。


「……。」


「分かった。お兄ちゃんがそう言うなら…」


「もう大丈夫そうだね。変に心配かけたくないから、じゃあ、美鎖はもう少し寝るね」と美鎖は再びベッドに横たわった。


「うん。おやすみ、美鎖」雷太は優しく妹の頭を撫でた。美鎖は猫のようにゴロゴロと心地よさそうにした。


「ふー、それにしても嫌な夢だったな。魔王と僕の精神がかなり融合してきてるのか、それとも、何か悪い予兆なのか…」


「いや、考えても仕方がない。明日も学校だし、とにかく寝よう」雷太は再び布団に包まると、深呼吸をして目を閉じた。


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