第23話 闇商人フェレス

今宵も「Hell’s Gatekeepers」のサバトが開幕する。踊り狂う「華」達。狂乱の舞台の中、全身黒ずくめの衣装纏いし、絶対的カリスマヴォーカル魔王様。立っているだけで全てが成り立ち、さらにその歌声は天をも魅了する。


「永遠に響け…黒薔薇の祈り」


魔王様が奏でる、静かで神秘的なピアノのメロディから始まり、徐々に重厚感が増していく。そして低音のギターリフが主体となり、魔王様が低く囁くように歌い出す。名曲「黒薔薇の祈り」


「闇の中で咲き誇る黒薔薇のように、強く美しく祈りを捧げる」歌声は高く力強くなり、メロディーが一気に壮大になってゆく。


スモークやライトを駆使した幻想的で神秘的なステージ演出。黒い薔薇の花びらが舞い、暗闇の中に浮かび上がる魔王様の姿。クライマックスでは全楽器が一体となり、壮大なフィナーレを迎える。


ラストを飾るに相応しいドラマティックな構成と深いメッセージ性が融合したそのパフォーマンスに、魂を揺さぶられ放心状態の「華」達。



「ふふふ…今夜もなかなかのエナジーが回収出来た」


魔王様がライブサバトをする理由。それは…サバトを通じて、ファンたちは魔王様の音楽に熱狂し、蕾から華へとエナジーを放出。集められたエネルギーは、魔王の封印された能力を解放するための力となり、彼の真の力を取り戻すための鍵となるのである。


ライブサバトを通じて得られたエネルギーは、さらに雷太を介して魔王様へと伝達される。このプロセスによって、魔王様と雷太の精神的な絆が強化され、二人はより強力な存在となる。


そしてもうひとつエナジーには重要な役割がある。魔王様はどこからか不思議な玉を出現させ、その玉に意識を込め「ふん」とエナジーを送った。


「ふぅ…」と魔王様の姿はみるみる雷太へと変わっていく。「よし、これで…」雷太は少し疲れた表情を浮かべ、そそくさとその玉をカバンに詰め込む。そして「お疲れ様でした」とスタッフに声をかけライブハウスを後にした。



そして今宵ヤツ・・が現れる…



雷太のマンションに忍び寄る怪しい陰、その姿には禍々しいオーラが漂っている。ゆらりゆらりと足を進め、遂には雷太の部屋の前まで迫り来る。そして、その陰はニヤリと怪しげな笑みを浮かべていた。


ピンポーン。ピンポーン。


「はい、はーい」インターホンに出る雷太。


「あ、どうもGamazonでーす。お届け物です」とカメラの前に荷物を持って立つ達配達員。ガチャリとドアを開ける雷太。


「まいど」と怪しげな笑みを浮かべる配達員。


「……」下から上へとその配達員を視線を配る雷太。「なんだフェレスか…」と冷ややかに対応する。


「なんやとは冷たいですやん。魔王様。せっかく変装してまで会いに来たっちゅうのに」と軽い口調で話す、この男の名は「メフィスト・フェレス」現世で便利アイテムを売り歩いている怪しげな闇商人だ。その眼は細く、鋭い視線は相手の心を見透かすような嫌な感じが漂い、さらに口元は常にニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。


「あ、もしかして、この前のメイクセット遅れたんまだ怒ってます?」


「いや、あれはあれで大変だったけどもういい。で、今日は何のようなんだ?」と冷ややかに対応する雷太。


「そうそう…例のアレ・・の回収しに来ましてん。そろそろ溜まるころやなって思いまして」と西の商人訛りがさらに胡散臭さを引き立たせる。



「ほら、コレだろ。さっさとと持って帰れよ」と雷太は玉をひとつフェレスに投げ渡す。


「おっとっととと」とお手玉をする様に慌てて玉を掴むフェレス。


「危ないですやん。もしこれをワイが落としてでもしたら、今日の魔王様のサバトが台無しになる所でしたやん」と唇を尖らせ怒りを露わにする。


「ごめんごめん」と反省の色もなく、したり顔の雷太、


「ええですか?この玉をいっぱい集めんと魔王様はいつまで経っても元の世界に帰られへんのですよ。わかってます?」


「いやー、分かってはいるんだけど…イマイチお前の事が信用出来ないって言うか…ほら、お前って未だに身元が怪しいし」と冷たい目でフェレスを見る雷太。


「なにゆうてまんの?ほら!これ!これ見て下さい!正真正銘の闇商人ギルド認定の証明書ですやん!ほんま疑い深いで魔王様は…」と胡散臭い笑顔がプリントされた証明書を見せ、プンプンとやや憤慨している様子のフェレス。


「いやいや、闇商人の認定って…」と怪しむ目でフェレスを見る雷太。


「いや、別にいいんですよ、ワイも商売でやってますしコレを元の世界と現世を繋ぐゲートに持っていかんと困るんは魔王様の方やし」とため息をつき両手上に挙げやれやれと呆れ顔で雷太を見つめる。


「ごめんごめん、分かった分かった。ゲートに行けるのは今の所フェレスだけだし、宜しく頼むよ。」と両手を合わせ頼み込む雷太。


「わかればいいんですよ。ほな、ワイはこの玉を持ってゲートに行って来ますわ。他にまた何かご入用があればいつでも呼んで下さいな。ほな、さいなら」と手を振りポンっという音と共に煙を上げフェレスは消えていった。


「んー…本当に胡散臭い、大事なエナジーをアイツに任せて大丈夫かな…」と一抹の不安を拭えない雷太であった。



---



そして場所は変わり…不自然な静寂が支配するその場所には、風の音や動物の鳴き声が一切聞こえず、ただ異様な静けさが広がっていた。元いた世界と現世を繋ぐゲートには、常に薄暗い陰影が漂う異様な場所である。


「よっこらっしょっと」とゲートの近くにある謎の石板の穴に玉をガチャリとはめ込むフェレス。


「ふぅー。ほんまあの人も疑り深いやっちゃで」とヤレヤレとため息をつく。


玉をはめ込んだゲートから発せられる光は紫や緑に輝き、揺らめくように不規則に輝いている。光自体が異質な存在感を放ち、周囲の空間は歪んでいるように見え、遠近感や視覚が混乱し、現実と異界の境界が曖昧になっていく。


「まぁ、ぶっちゃけどっちでもいいんやけど…」とニヤッとフェレスは遠くを見つめ不適な笑みを浮かべた。



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