第22話 プロフェッショナルX

『ここはライブハウス『world of spirits』。音楽ファンの聖地として知られるこの場所には、毎日多くの人々が集う。そして、そんな場所を支える一人の男がいる…。その名は、明日出あすでもうす。このライブハウスの店長であり、数多くの業務を、そつなくこなすその姿はまさにプロフェッショナルである』


(カメラが明日出を追う)


明日出:

「おはよ〜。さぁ、スタッフのみんな、今日も元気にいくわよ!」


『今回紹介するXは、目つきが鋭く、一見強面こわおもてな印象のこの男性。この人こそが今回の主役『明日出 申』その人だ』



ナレーター:

「明日出さん、朝一番の業務は何ですか?」


明日出:

「まずはスタッフの管理をチェック。それからスタッフが来る前にライブハウスの入り口の掃除をするの。その後でスタッフが来たら、みんなに細かい予定を伝えて、スケジュールを確認するのよ。」


(スタッフたちに今後の予定を伝える明日出、その優しい口調に人柄が溢れでている。プロフェッショナルだ)



ナレーター:

「それが終わったら次は?」


明日出:

「ホームページの更新作業よ。新しいイベント情報や出演者のプロフィールをアップデートするの。お客さんに最新情報を提供するのも大事な仕事だからね。」


(パソコンに向かって作業をする明日出、その先に見えるのはパソコンの画面だけではなく、その向こうに見えるお客様の笑顔だと彼は言う。なんてプロフェッショナルだ)



ナレーター:

「店長として、実務だけではなく経営の事も?」


明日出:

「そうよ〜。毎日の売り上げの集計と月の売り上げの集計、さらに、経費の管理なんかもやってるのよ。新たに機材が必要な場合や機材が壊れちゃったりして、修理が必要なときはお金がいるし。月の経費から使える範囲のお金を計算して用意するの。あと、お金に関することで言えば、ドリンクの在庫管理と業者への発注もするわよ。」


(普段は優しい感じの明日出も時折、経営者として厳しい顔を覗かせる。その顔はまさにプロフェッショナルだ)



ナレーター:

「特にどんな業務が大変ですか?」


明日出:

「ライブイベントの企画と出演者のブッキングがあるの。これが一番大変だけど、自分の中では一番好きな仕事なのよ〜。」


(出演者と電話で話す明日出、未来のイカ・・したアーティストを発掘する。それをいち早く見つけた時が、何よりも嬉しいと彼は満足気に語る。うーん。プロフェッショナルだ)



ナレーター:

「リハーサルや本番のPAや照明も担当されるんですね?」


明日出:

「そうなのよ。人手が足りない時は、リハーサルや本番でPAや照明をやることもあるの。でも、それがまた楽しいの。アーティストと一緒にステージを作るのって、すごく充実感があるわ〜。」


(リハーサルを指示する明日出、その眼差しは真剣そのものだ。まさにプロフェッショナルな仕事ぶりだ)


カメラを回していると…


(突然、トラブルが起こったみたいだ。どうやら、出演バンドのギタリストが急遽来れなくなったらしい…)


明日出:

「えぇ…分かったわ。安心して、知り合いに良いギタリストがいるの…一度、連絡を取ってみるわ。あ、もしもし…猛?…実は…」


(どんなトラブルもサクッと解決。その築き上げてきた人脈と太いパイプラインは、まさにプロフェッショナルのキズナだ)


ナレーター:

「店長ってどんな人ですか?」


(ライブハウスにいた2人にインタビューをしてみる)


少年A:

「明日出さんは本当に頼れる存在でやんす。この前なんか、お腹が空いている時にアンパンくれたでやんす」


少年B:

「ブツブツブツブツ…。ブツブツブツブツ…」字幕には「明日出さんは、最高にいい人です。この前最高に美味しいアンパンいただきました」と書いてある。



ナレーター:

「明日出さん、最後に一言お願いします。」


明日出:

「毎日が忙しいけど、ライブハウスを支える仕事は本当にやりがいがあるわ。これからも最高にイカ・・した仲間たちと最高にイカ・・した空間を作っていくわ!」




『こうして、今日も明日出の1日は続く。音楽の世界を支えるその姿は、多くの人々に感動を与え続けているのだった』


(BGMが流れ、エンドロールが表示される)



---



「ねぇ、どうだった?なかなかいい感じだったんじゃない?」と映像を見て「ふふん」と満足気な明日出。どうやら『プロフェッショナルX』の感想が聞きたくて堪らないようだ。


「良かったやんすよ。特に俺のところもバッチリ使ってもらえて最高の出来でやんす」と明日出以上に満足気な龍之介。鼻息も荒く興奮気味だ。


「ブツブツブツブツ…」とその言葉と表情は、かなりわかりにくいが、四狼もかなり満足気みたいだ。


「なんでなんだい?なんでこの美しい僕にオファーが来なかったんだい!?」と少し怒り気味の指音が声を上げる。


「ちょうど指音先輩が控え室に篭ってた時に、2人がインタビューを受けてたみたいだよ」と雷太は指音をなだめるように言う。


「僕の美しさを全国のみんなに知らしめる絶好の機会だったのに、非常に残念だよ」と指音が悔しそうに呟く。


「ハーイ。みんな視聴会に集まってくれてありがとうね。じゃあ、今度の土曜日の夜に放送されるみたいだから、いろんな人に宣伝しといてね」と明日出はかなり浮かれている様子で話す。


---


そして、来たる土曜日。明日出の出演する『プロフェッショナルX』が放映されることは無かった。


その理由は、サッカーワールドカップの延長戦と重なったからだという。


この後、これが原因で、明日出がサッカーを嫌いになってしまったという事は言うまでもない。




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