第21話 音撫 四狼は寡黙である…2

「Hell’s Gatekeepers」のベーシスト。音撫おとなで 四狼しろうは寡黙である…。


…様に見えるが実は声が小さいだけで、かなりのお喋りだ(自己評価)。普段から無表情なのも相まって、まわりからは無口でクールな印象を受けてしまっているみたいだ。


そんな四狼が挑戦している事がある。そう、スイーツを食べる事だ。身長も高く大人びていて見える彼は、一見ブラックコーヒーなど苦い系が好みかと思われがちだが、それとは真逆の大の甘党なのである。


毎回、スイーツ屋に新商品が出るたびに、足繁く通うが、一度たりともまともに注文ができた事が無いのである。その原因は声が小さ過ぎて店員さんが毎回聞き取れないからだ。


しかし、今回は(も)どうしても食べたい新作スイーツがある。


その名も『トリプルチョコレート・ファッジファンタジー』!!


チョコレート好きにはたまらない豪華なスイーツ。このスイーツは、トリプルのチョコレート層が織りなす贅沢な甘さとコクが特徴で、どの一口もチョコレートの深い味わいを楽しむことができるらしいと評判だ。


さらにスイーツの詳細を説明するところ見ると、ベースには濃厚なチョコレートブラウニーが土台となっており、ブラウニーはしっとりとした食感で、リッチなダークチョコレートの風味が広がり、その上には、滑らかなミルクチョコレートガナッシュがたっぷりと塗られていて。ガナッシュはクリーミーで口溶けがよく、チョコレートの甘さとコクが絶妙に調和。ホワイトチョコレートのムースが軽やかに乗せられ、ムースはふわっとした感じで、甘さ控えめのホワイトチョコレートが全体のバランスを整えている。


そして仕上げのデコレーションとして、上には削ったダークチョコレートとホワイトチョコレートのチップが散りばめられ、サイドにはチョコレートファッジソースがたっぷりとかけられており、新鮮なミントの葉と一緒に、濃厚なバニラアイスクリームが添えられている。との事だ。


うおおおおおおおおおおお!ブツブツブツブツこれは是非食べなければ!ブツブツブツブツ」テンションが爆上がりの四狼。(周りからは分からない)


意を決してスイーツ屋の前に立つ四狼。今回こそ大丈夫と自分に言い聞かせる。


あー。ブツあー。ブツ本日は晴天なり。ブツブツブツ本日は晴天なり。ブツブツブツあー。ブツあーブツ」発声練習の成果も出ていてバッチリだ。


鏡に向かってスマイルの特訓も完璧に出来ている(

自己評価)。よし。今日こそ確実にイケる(自己評価)。とスイーツ屋へ一歩踏み出すのであった。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」と店員さんは、いつもの笑顔で話しかけてくる。


四狼も満面の笑みむひょうじょうで注文する。「…お願いしますブツブツブツ


「…?」

「あのーお客様?」と少し困った様子で尋ねる。


もう一度大きな声で注文する四狼。


「トリプルチョコレート・ファッジファンタジーひとつと、苺フラペチーノのラージサイズ、トッピングにソフトクリームのせ、チョコチップも追加でお願いします!!!!」


よし!完璧だ!発声練習の甲斐もあって完璧な注文が言えた(自己評価)。とギュッと拳を握る四狼。


「…あの…ご注文は…?」と、さらに困惑する様子の店員さん。


ダメか…今回もダメなのか…ブツブツブツブツ」と諦めていつものようにメニュー表のコーヒーを指差す。とその時。



「あれー?ロウさんじゃないッスか!こんなところで奇遇でやんすね」そこに現れたのは龍之介と雷太だった。


「ブツブツブツ…」と四狼は龍之介に話しかける。


「あー。なるほど!分かったでやんす!」と何かを理解した龍之介。


「店員さん。この、トリプルチョコレート・ファッジファンタジーと、苺フラペチーノのラージサイズ、トッピングにソフトクリームのせ、チョコチップ追加をひとつ下さいでやんす」そう店員に注文する龍之介。


「ブツブツブツ…」と四狼は龍之介に話しかける。


「いやー別にいいでやんすよ」「ブツブツブツ…」「あ、じゃあお言葉に甘えて…」「店員さん。コーラー2つ追加でお願いでやんす」と四狼と会話を交わした龍之介はさらに注文を追加した。


「ブツブツブツブツ…」と小さくグッドサインを龍之介に向ける四狼。

「コーラーありがとうでやんす」と満面の笑顔でグッドサインを返す龍之介。



そして数分後、念願の『トリプルチョコレート・ファッジファンタジー』と『苺フラペチーノ』が目の前に運ばれてくる。「うおおおおおお!遂に食べれる時が来た!ブツブツブツブツブツブツ」と感極まって相変わらず感動を隠せないむひょうじょうの四狼。目の前に置かれたそのスイーツは、まるで夢のような一品だ。


口の中に広がる甘さの波が、まるでチョコレートの夢の中にいるかのような感覚をもたらす。「あぁ、最高だぁ…ブツブツブツ」しばらく彼の至福の時が続いたのであった。


---


「魔王様、今日はロウさんがいてラッキーでやんしたね」と四狼にコーラーを奢ってもらい満足気な龍之介。


「それにしても、龍之介ってロウさんが何を話してるのか、わかるからすごいよね」と雷太は頷きながら感心する。


「えっ?わからないでやんすよ」と龍之介は真顔で答える。


「えっ!?でも…ちゃんと話してたよね?」とその答えに困惑する雷太。


「はは…カンでやんすよ。フィーリングで感じるんでやんすよ!」と笑いながら話す龍之介を見て雷太は「さすがは脳筋…」と改めて感心するのであった。





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