第18話 月光の序曲
黒装束の男はゆっくりと蛭間に近づき、その存在感で場を圧倒した。蛭間は一瞬怯んだが、すぐに冷静を取り戻し、スタンガンを構えた。「ひっ、お前は何者だ…!」
男は答えず、ただ静かに立ち続けた。その目には冷たい光が宿り、龍之介に強い印象を与えた。「なんだ…なぜか、この光景が懐かしい…」
黒装束の男は龍之介の方に目を配る。その隙をついた蛭間が黒装束の男に近寄りバリバリバリっとスタンガンを放った。「ひっひっひ…誰かはわからないが…コレを喰らったらお終いだな…ひっひっひ…」
しかし、スタンガンをまともに喰らったはずの黒装束の男は微動だにしない。そして、そのまま冷たい目は蛭間の方に向けられた。
「ひっ!?なんで!?」蛭間は慌てふためいて後ずさる。
黒装束の男は蛭間の方に指を向け何かを弾いた。
「月光の
そう、黒装束の男がと呟くと蛭間は何かに弾かれた。
「あひっ!?なんだ!?」のけぞり奇声を上げる蛭間。
黒装束の男は何度も蛭間に向けて指先から何かを弾く。まるで空気の中に見えない弦を張っているかのように、指先から目に見えない衝撃波が飛び出す。
「ひっ、ひぃ、ひぁ…やめ…」何度も何度も弾かれ、のけぞる蛭間。倒れたくても何度も弾かれ、倒れられないでいる。
黒装束の男の所作は、まるで優雅にピアノを弾くように美しく。闇の中で時折差す月の光がよりその神々しさを際立たせた。そして、その動きが止まった瞬間、蛭間はついに力尽き、地面に崩れ落ちた。周囲には静かな威圧感だけが漂った。
その光景を見ていた龍之介は、なぜか感極まって頬から涙が溢れ落ちる。「なんで…俺は泣いているんだ…」龍之介自身もその感情についていけず困惑していた。
すると、黒装束の男は龍之介に目を向けてゆっくりと近づいてくる。
「魔王様…?」
龍之介は自分自身の言葉に驚いた。なぜだかその男に対して懐かしさ、尊敬、信頼などの様々な感情が流れ込み入り混じる。不思議な感覚だった。
そして、黒装束の男は龍之介の目の前に立ち、龍之介の頭に手を差し出しこう言った。
「アッシュ…」
その言葉を聞いた龍之介の脳裏に様々な記憶が流れ込む。それは目の前にいる男に忠誠を誓う屈強な戦士の記憶。まさに夢の中で見たアッシュという男の記憶だった。それは自分の前世での記憶。現在の記憶と前世の記憶が入り混じり、混乱するわけでもなく浸透していく。そして、全てを思い出した龍之介は黒装束の男にこう言った。
「あぁ…魔王様…お久しぶりでやんす」
黒装束の男は懐かしむような眼差しでこう言った。
「うむ、久しいなアッシュよ…いや、今は龍之介と呼んだ方が良いのかな…うっ…」
突然、黒装束の男は次第にその姿勢を崩し始めた。肩で息をし、目に見えない疲労の色が浮かび上がる。
「どうやら
龍之介はその変化に気づき、不安そうに男を見つめた。「だ…大丈夫でやんすか?」
黒装束の男は振り返り、龍之介に向かって微かに微笑んだ。その瞬間、彼の体が光に包まれ、徐々に黒装束が消え去っていった。その光の中から現れたのは龍之介の知る人物だった。
「く…黒崎?」
龍之介の声には驚きと混乱が入り混じっていた。雷太は疲れ切った表情で、しかし穏やかな笑みを浮かべた。「良かった。キミが無事で…」
龍之介は信じられない思いで雷太を見つめた。「お前が魔王様…いや、あなたが魔王様だったなんて…どうして…」
魔王だった時とは打って変わって雷太は優しく微笑みながら龍之介に告げる。
「ねぇ…突然でアレなんだけど…」
「俺とバンドを組まないか…?」
雷太の突然の誘いに龍之介の頭はさらに混乱を極めた。「バンド…?」
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雷太にドラムを叩いて欲しいと頼まれた龍之介は、困惑しながらもギュッとスティックを握りしめ、ドラムセットに向かう。
キック、スネア、タム、ハイハットとひとつひとつの音を確かめながら、軽めのビートから始める。そして、徐々に手数を増やしていく。
ドラムを叩きながら、龍之介の頭の中には父親との思い出が蘇る。心の中で父親の声が聞こえるような気がして、さらに力強く叩き続ける。
雷太は龍之介のドラムを聴き、満足そうに頷いた。「そう…これこれ」
龍之介のドラムは、抗争を終わらせる宴のように廃倉庫の中で響き渡り、いつまでも鳴り続けた。
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後日、アスモデウスとHMKの抗争の全ての原因は蛭間だった事がわかり、双方のリーダーが和解を申し出て抗争は集結した。蛭間は言うまでもなくHMKを追放されたようだ。
龍之介は今回の件を期に、アスモデウスを抜けると猛に伝える。猛は快く了承してくれた。
ちなみにHMKの名前の由来は「
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