第14話 龍との邂逅

稲光が走る暗黒の魔城。その暗闇の中、玉座に座る一つの陰。その陰から放たれる禍々しいオーラ。一つ一つの所作に威圧感と絶対的なカリスマ性が宿る。そこに集まる幹部たちも、禍々しいオーラが溢れ、かなりの強者に見えるが、その玉座に座る人物の前ではそれも霞んで見えた。『魔王様』と呼ばれる人物の命令一つで全てが動くその光景に、龍之介は不思議な感覚を覚える。


「魔王様、敵の防衛拠点の一つであるサマサニックを先日、無事に陥落させやした」と、一人の幹部らしき人物が魔王に報告を入れる。その人物は鋭い眼光をし、口からは牙のような八重歯が生えている。尻尾があり、全身を龍のような鱗の鎧で覆っているが、その屈強な肉体は隠しきれない。


「ご苦労であった、アッシュ」魔王はその人物を労う。


「ありがたき幸せでやんす」その人物は魔王の労いの言葉を受け、かなり嬉しいのか、尻尾をブンブンと振っているのが見える。そのアッシュという人物と龍之介は、なぜかシンクロしているような感覚に陥る。そして、その感覚は次第に薄れてゆき、ゆっくりと現実に引き戻される…。


「なんか…不思議な夢だったな…」


夏が始まる7月。少年、龍之介は澤口という名字から田中へと変わっていた。両親の離婚は、思春期の中学生にとって衝撃的な出来事であり、彼の私生活が荒れてしまうきっかけとなった。


「龍之介!あんたまた警察から連絡があったよ!今度は何をやらかしたんだ!?お母さんが心配してたよ!」と姉の舞霞が口煩く龍之介にまくし立てる。


「うっせぇなー!」と、龍之介は姉の言葉を遮り家を飛び出す。


「ちょっと、たまには母さんの病院にも顔を出しなさいよ!」と姉はさらに龍之介をまくし立てる。


龍之介は聞こえないフリをした。母親は元々体が弱かったせいもあり、離婚が原因で体調を崩し入院生活を送っている。そして、姉は大学に通っていたが大学を辞め、今は働きに出ている。そんな母にも、姉にも苛立ちを感じていた。もちろん、その原因を作った父親には憎悪すら抱いていた。いや、自分の不幸を呪い、社会全てに憎悪を向けていた。


龍之介が向かった先にいたのは、いかにも柄の悪そうな人物ばかりが集まっていた。地元でも有名な反社の集まりで、そのチーム名は『アスモデウス』街の人も怖くて誰も目を合わせない。


「おい、田中!」リーダー格の男、たけるが龍之介に声をかける。猛は龍之介よりも年上で、初代『アスモデウス』のリーダーの弟でもある。その風貌からは凶暴さと危険さが漂っていた。


「何だよ、猛」と龍之介が返す。


「今日の夜、また例の場所で集まりがある。お前も来いよ」と猛が告げる。


「分かったよ」と龍之介は応じた。


その時、龍之介に熱い視線を送る人物がいた。龍之介は視線の先を辿る。その人物は不良ではなく意外な人物だった。


『黒崎 雷太』


龍之介と同じ中学で特に目立つわけでもなく、真面目な優等生という印象だ。しかもお互いにそんなに面識はない。


「おい、お前隣のクラスの黒崎だろ?俺に何か用か…?」と雷太に近づき威圧する龍之介。


「いや…別に…」と素っ気ない態度の雷太。


「なんだ?アイツ…」と龍之介は訝しげに思いながら、その場を後にした。


雷太はその視線をずっと龍之介に向けたまま、何かを考え込んでいる様子だった。


「アッシュ…」そう雷太は呟いた。

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