第13話 音楽祭開催

そして、音楽祭に向けての練習が始まった。


雷太はもちろんヴォーカル。と、言いたいところだがヴォーカルではなく、トライアングルを担当することにした。音楽祭でヴォーカルなんてしたら、そのカリスマ性で一発で魔王ってバレてしまう。それだけは、何としても避けたいのだ。


今回のクラスの演し物は、ユリを中心とした聖歌隊スタイルで、オルガンや木琴などの演奏を交えたものだ。


「魔王がいるクラスの演し物が神の愛と栄光を称える合唱だなんて、なかなか皮肉なものだ…」と感慨深く思う雷太であった。


そして、練習を重ね、いよいよ音楽祭の本番を迎える。クラスの演し物は様々で、吹奏楽風だったり、アカペラだったり、民族音楽やシンプルにバンド形式のクラスもいた。


神山先輩のクラスは、超絶ナルシストの先輩らしく、先輩のギターを中心としたインストゥルメンタルバンドだ。ド派手な衣装に身を包み、華麗なる演奏でみんなを釘付けにし、音楽祭を大いに盛り上げていた。


「うんうん…さすがは我がバンドのギタリストだ」と雷太も鼻が高かった。


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そしていよいよ僕らの出番となった。ユリを始めとしたクラスメイトたちの緊張が伝わってくる。龍之介は相変わらず何も考えてないようで、本番前だというのに筋トレに勤しんでいる。いつも通り全く緊張が見えない。今回はそれはそれで逆に頼もしかったりもする。


ステージの幕が上がると、観客席から拍手と期待のざわめきが聞こえた。雷太はトライアングルを手に、ユリを中心としたクラスメイトたちと並んでいた。ユリの姿を見て、雷太は改めて彼女の強さと美しさに感心した。


龍之介のシンバルの音と共に、オルガンの荘厳な音色が会場に響き渡り、木琴の柔らかい音がそれに続いた。ユリが一歩前に出て、静かに歌い始めた。その声は、まるで天使のように清らかで、聴く者の心を浄化するかのようだった。


「主の御名を称えよ、我らの心をひとつにして…」


歌声に合わせてクラスメイトたちがハーモニーを奏で、雷太もリズムに合わせてトライアングルを鳴らした。簡単な楽器だったが、雷太は一音一音に心を込めて演奏した。龍之介の打楽器隊も臨場感を高めてゆく。


観客は静かに聞き入り、その美しい歌声と演奏に心を打たれた。雷太は、ユリの歌声が会場全体を包み込み、まるで神聖な空間に変えてしまったかのように感じた。


「ユリ、僕の思った通り、やっぱり君の歌声は素晴らしい…」雷太は心の中でそう思いながら、ユリを見つめた。


演奏が終わると、会場は一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。ユリは深々とお辞儀をし、クラスメイトたちと共にステージを降りた。


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そして結果が発表される時が来た。全てのクラスの演奏が終わり、ステージ上には音楽祭の審査員である先生たちが並んだ。


「では、今年の音楽祭の結果を発表します!」司会の生徒がマイクを持って叫ぶと、会場内は静まり返り、緊張感が漂った。


審査員長が封筒を手に取り、その中から結果を取り出した。「今年の音楽祭、最優秀賞は…」彼の声に会場全体が耳を澄ませた。


「3年B組!」


会場は歓声と拍手に包まれ、神山先輩とそのクラスメイトたちは歓喜の声を上げた。雷太もその光景を見て、先輩たちの演奏がどれほど素晴らしかったかを改めて感じた。


しかし、まだ終わりではなかった。審査員長は続けて、「次に、特別賞の発表です。この賞は特に印象的なパフォーマンスを披露したクラスに贈られます」と言った。


「特別賞は…2年A組です!」


ユリとクラスメートたちは驚きの表情を浮かべた後、一斉に喜びの声を上げた。雷太も嬉しさで胸がいっぱいになった。


「ユリ、やったね!おめでとう!」雷太はユリの肩を叩き、笑顔で祝福した。「やったでやんす!」龍之介も嬉しそうだ。


ユリは涙を浮かべながら微笑み、「ありがとう、みんなのおかげだよ」と言った。その言葉に、雷太は心からの喜びを感じた。


その日の音楽祭は、ユリの歌声とクラスの団結力によって、素晴らしい成功を収めた。雷太は、ユリの素晴らしい才能を再確認し、自分のクラスメイトたちと共に一つの目標を達成できたことに誇りを感じた。


その日の夜、雷太はベッドに入りながら、ユリの歌声を思い出していた。「あの歌声は、本当に天使のようだったな…」雷太はそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。

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