第12話 癒しの歌

放課後の帰り道、音楽祭について考える雷太。「このままではきっと、音楽祭でいい結果は残せないんだろうな…ユリにちゃんと伝えるべきなのか…」と頭を抱える。


そんな雷太をよそに、隣にいるユリは幸せそうだ。「私、今日いろいろな楽器触ってみたけど、どれも楽しかったな。ねぇ、雷太はどの楽器が私に向いていると思う?」と、非常に困る質問をしてきた。


「そうだね…ユリが一番楽しいと思った楽器をやってみればいいんじゃないかな…ははは…はは…」と、もう音楽祭の事は気にしない事に決めた雷太であった。


「ユリが幸せそうなら、それでいいじゃないか…でも…クラスのみんなの事を思うと…」まだ、心の中で葛藤する雷太。


「そうだね。今年はどの楽器にしようかな」と、音楽祭に向けて楽しそうにしているユリを見ているとなんだか複雑な気分になった雷太。


そうこうしているうちに、家の近所の公園の前まで来た2人。公園で子供達が遊んでいる声がする。


「わはは…きゃっ…きゃ…」


「懐かしいね。雷太ともよくこの公園で遊んだね」とユリが懐かしむ様子で雷太に語りかける。


「そうそう…たしか、よく勇者ごっこをしたよね。ボクが勇者でユリがお姫様」雷太も幼かった頃を思い出しては懐かしむ。「まあ、その時は勇者だったかもしれないけど、今では魔王なんだよな」とはユリには口が裂けても言えない。


「そうそう…雷太はいつも助けに来てくれたよね」満面の笑顔で話すユリ。


その時、公園で遊んでる男の子がズサっと転んでしまう。


「うぁぁあぁあーん」大きな声で泣く男の子。膝を擦りむいてかなり痛そうだ。


「大変…」と、男の子に寄り添うユリ。「大丈夫?」


「うぁああん!痛いよ…」と男の子はなかなか泣き止まない。


「大丈夫だよ…おまじないをかけてあげる」と、ユリは歌を歌い始める。


その声は、まるで天使が降り立ったかのような美しい音色だった。透明感があり、柔らかく、包み込むような響きが男の子の涙を拭い去る。


ユリの歌声は風に乗って、優しく揺れながら周囲に広がっていく。音の一つ一つが、まるで星が瞬くように輝き、心を癒すように流れていく。


男の子の泣き声が次第に小さくなり、ユリの歌に聞き入るかのように、静かに涙を止めた。


「うぁあ…ん…」と、男の子は涙を拭い、ユリの顔を見上げた。「あれ…?痛くない」


「ね、もう痛くないでしょ?これはね。私の夢の中で現れるお姫様がいつも歌ってくれた歌なの」とユリが優しく微笑む。


「あ…ありがとう!お姉ちゃん!」とあれだけ痛そうだったすり傷が嘘みたいに消えているようだった。


すると、ユリの歌声を聴いた雷太は何かを思いつく。「そうだよ!ユリ、今度の音楽祭はヴォーカルをやったら良いんじゃないか?昔っから歌うのが好きだったじゃないか」



「えー!人前で歌うのなんて恥ずかしいよー!」と照れるユリ。どうやら、まんざらそうでもないみたいだ。



翌日、クラスのみんなにユリの歌声を聴いてもらう事となった。言うまでもなく、もちろん満場一致でユリのヴォーカルは決定した。


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この時、僕はまだ気付いていなかったユリの……の事を…

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