第11話 ユリと猫の呪い

中間テストの疲れも取れ、いつものように学校に登校する雷太。


「おはよう雷太。」とユリがいつもの変わらない笑顔であいさつをしてくれる。


改めて紹介しよう。彼女は桜庭さくらば ユリ。雷太とは幼馴染。雷太の亡くなった両親とユリの両親とは学生時代から仲が良かったらしく、ユリと雷太も幼稚園の時からの付き合いである。性格は明るくて、面倒見が良く、クラスでも人気者だ。しかし、そんな彼女にも唯一の欠点がある。


授業が始まり、担任の先生が一言。「えー。もうすぐ音楽祭の時期が近づいています。クラス全員で何をやるか決めていきましょう」


雷太が通う学校では音楽に力を入れていて、毎年「音楽祭」が開催される。各学年の各クラスが一曲披露し、投票で各学年の1番を決めるという本格的な行事だ。全クラスが気合を入れており、生徒たちの本気度はアツい。


しかし、ここでユリの欠点が問題になる。


「どうしようか、何を演奏する?」とクラスメイトたちが話し合いを始める。ユリが手を挙げる。「私、ギターをやりたい!」


クラスメイトたちは一瞬、無言になり、雷太は心の中で「ああ、来たか…」とため息をつく。


そう…彼女は壊滅的に楽器が下手なのだ。ユリの演奏は、何を弾いてもまるで猫の喧嘩のような音を出すことで有名だ。それに加えて無自覚なのでタチが悪い。


「えっと、ユリちゃん、それはちょっと…」と、クラスの誰かが言いかけるが、ユリのキラキラした目を見て、言葉を飲み込む。


雷太は心の中で悩む。「どうにかしてユリに本当のことを言わないと、クラス全体が困ることになる。でも、ユリを傷つけたくないし…」


「そうでやんす!ユリちゃん、トライアングルやってみたらどうでやんすか?」と龍之介が発案。


「なるほど…トライアングルならあんまり演奏の邪魔にならないかも…ナイスだ龍之介」と雷太は龍之介にグッドサインを送った。軽く頷く龍之介。


ユリがトライアングルを演奏することになった。ユリがトライアングルを手に取り、ニコニコしながら鳴らし始める。しかし、その瞬間、なぜか猫が喧嘩しているような耳障りな音が響き渡る。「ニャーオ、シャー!」と、まるで猫同士が激しく争っているかのような音だ。


「ええっ!?なんでトライアングルでそんな音が…」とクラス全員が驚く。


「うーん、難しいなぁ。でも楽しい!」とユリは笑顔でトライアングルを鳴らし続ける。


「次はカスタネットを試してみたら?」と雷太が提案する。


ユリがカスタネットを手に取り、リズムを刻み始める。しかし、またもや猫の喧嘩のような音が鳴り響く。「ミャーオ、シャー!」と、カスタネットの音がまるで猫の悲鳴のように響く。


「カスタネットでもこんな音が出るなんて…」とクラス全員が驚愕する。


「これも難しいけど、やっぱり楽しい!」とユリは笑顔でカスタネットを鳴らし続ける。


「最後に鈴を試してみたら?」と雷太が提案する。


ユリが鈴を手に取り、振り始める。しかし、またもや猫の喧嘩のような音が鳴り響く。「ニャーオ、シャー!」と、鈴の音がまるで猫の叫び声のように響く。


「なんでどの楽器でもこんな音が…」とクラス全員が頭を抱える。


「不思議だなぁ。でもやっぱり楽しい!」とユリは楽しそうに鈴を振り続ける。


クラスメイトたちはユリが猫の呪いにでもかかっているのではないかと不安になるが、ユリの楽しそうな姿を見て、どうしても否定できない。なぜか全ての音が猫が喧嘩しているような音になるのだが、ユリは楽しそうだ。


「まあ、ユリが楽しんでいるなら、それでいいか…」と雷太は心の中で思ったのだが、クラス全員の表情は暗い。


「このままでは音楽祭でこのクラスは勝てない。」みんながそう思ったのであった…。

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