第10話 ネムネムだっはーん

今宵も「Hell’s Gatekeepers」のサバトが開幕する。踊り狂う「華」達。狂乱の舞台の中、全身黒ずくめの衣装纏いし、絶対的カリスマ。黒崎雷太、ステージネームは「魔王」。立っているだけで全てが成り立ち、さらにその歌声は天をも魅了する。そんな彼の日常が始まる。


ライブが終わった後、黒崎 雷太には日常が…いや、現実が待っている。


そう、中間テストだ。


黒崎家は両親を事故で亡くし、妹と2人暮らし。


国からの援助とライブの稼ぎで何とか生活をしている。


学校も奨学金やら援助で行かせていただいているので、なるべく優等生であり続けなければいけない。


もし、夜にライブハウスでバンドでヴォーカルをしているなんてことがバレたら、下手したら学校をクビになってしまうかもしれない。


考えるだけでも恐ろしい。それだけは何としても避けたい。妹の美鎖も養わなければいけないのだ。まぁ、とにかく今は勉強に集中だ。


幸い、雷太の学力は中の上くらい、一夜漬けで明日のテストは何とかなるだろう。


「よし、頑張るぞ」雷太は眠気を覚ます美鎖が用意してくれた特製眠気覚ましドリンク『ネムネムだっはーん』を片手に勉強に勤しむ。


勉強も捗り、深夜を過ぎた頃。突然眠気がやってきた…。


「よし、こんな時にこそ『ネムネムだっはーん』だ」と雷太はゴクゴクと一気飲み。


「よし!これで眠気も…ふっ…って、あれ…なん…だか…意識が…」と眠気を覚ますはずが、さらに眠気に襲われ崩れ落ちてゆく雷太。


そして夜が明け、雀がちゅんちゅんと鳴き、鶏がコケコッコーと叫び朝になる。「だっはーん!」と飛び起きる雷太。


彼の周りには散らばった教科書やノートが無造作に積み重なり、その中でひときわ目立つのは美鎖が書いた「頑張ってね、お兄ちゃん!」というメモだ。


「あぁ、やってしまった…」雷太は頭を抱えながらも、素早く身支度を整え、学校へと向かう。


---


「とにかく少しでも今回のテスト範囲を頭に入れておかないと…」教科書を読みながら登校する雷太。


「おはようでやんす!」と元気な声が響く。龍之介だ。「あれ?魔王様どうしたでやんすか?教科書を見ながら登校だなんて、危ないでやんすよ」


「おはよう雷太。あれ?どうしたの?」とユリも声をかけてくる。


「おはよう。昨日、一夜漬けしようとして寝ちゃったんだ。なので、今日の中間テストがヤバいかもしれないんだよ」と雷太は困った顔で答える。


「雷太は成績が良いから大丈夫だよ。何とかなるよ」とユリが優しく励ましてくれる。


「ユリはいつも優しいな」と心の中で思う雷太。


「大丈夫でやんすよ。自分はもう諦めてるでやんす」と龍之介が気楽そうに言う。


「お前はいつもそうだろう」と心の中でツッコミを入れる雷太。



中間テストがスタートした。雷太は問題用紙を見つめ、頭の中で必死に内容を思い出そうとする。しかし、眠気と疲労が重なり、全然思い出せない。


「これはまずい…」と雷太は焦り始めた。そのとき、雷太はふと魔王としての自分を思い出す。「こんな時、魔王ならどうするか…」


雷太は深呼吸し、心を落ち着ける。そして、頭の中で自分を魔王の姿にイメージする。「自信を持て。自分ならできる」


問題用紙に集中し、まるでライブでのカリスマ的な存在感を発揮するように、ペンを握りしめる。


しかし、問題の難しさに再びピンチに陥る雷太。その時、雷太の脳裏に浮かんだのはライブでの特技――アドリブだ。


「そうだ、アドリブで何とかするんだ」雷太は問題文を自分流に解釈し、独自の回答を書き始める。例えば、歴史の問題で「鎌倉幕府の成立年」を問われたとき、雷太は「魔王の力により成立」と記入。数学の問題で「方程式を解け」と書かれているところを、「魔王の魔法により解決」とユニークな解答をする。


時間が経つにつれて、雷太はますます調子に乗ってきた。周囲の生徒たちは彼のペンの動きに驚き、教師も一瞬の間に立ち止まるほどだ。


テスト終了のベルが鳴り、雷太はペンを置いた。隣の席のユリが心配そうに声をかける。「どうだった、雷太?」


「た…たぶん大丈夫だったとおもうよ」と自信なさ気に答える雷太。


数日後、テストの結果が返ってきた。雷太は何とか今回は独自の回答で赤点を逃れたが、全く違う意味で教師に感心されることとなった。「創造力豊かですね」とコメントされ、雷太は苦笑いを浮かべる。


「もう、一夜漬けと『ネムネムだっはーん』はやめよう…」と心に誓う雷太であった。


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