第4話 神山 指音

視聴覚室の薄暗さが緊張感を高める。龍之介が映像メディアをセットアップし、スクリーンには学園祭での軽音部のライブが映し出される。そのバンド自体は今一つだったが、その中でギターを手にした生徒が、その超絶技巧で会場を圧倒している。雷太はその演奏に心を奪われ、確信に満ちた声でつぶやく。


「おぉ…これこそ今、"Hell’s Gatekeepers"に欲しい逸材だ…」


しかし、龍之介の表情は曇っている。雷太は友人の様子に気づき、問いかける。


「どうしたんだ?彼こそ最高のギターリストじゃないか!とにかく勧誘しに行こうよ!」


龍之介は躊躇しながらも、「ま…まぁ…一度会ってみればわかるでやんす」と言い、雷太を軽音部の部室に誘う。


そこで彼らを待っていたのは、手鏡を持ちながら身だしなみを気にしつつ、龍之介に語りかける、一見してチャラそうな男が薔薇を咥えてポーズを決めて佇んでいた。


「やぁ、龍之介くん!この前の学園祭はヘルプでドラムをしてくれてありがとう!助かったよ!君のおかげで僕のライブは最高の状態で輝けたよ!」


彼の名は神山かみやま 指音しおん。雷太の一年上の先輩で目がパッチリしており、長いまつ毛がその端正な顔立ちを際立たせている。自分の美しさに絶対の自信を持っている彼の姿は、一見して強烈な印象を与える。龍之介が躊躇した理由は、会った瞬間に何となくわかった。彼は超絶ギタリストでもあり、超絶ナルシストでもあるのだ。


指音が龍之介に尋ねる。「ところで龍之介くん、今日はなんの用があって来たんだい?」


困った様子の龍之介が雷太をチラチラ見る。指音をバンドに誘うかどうか悩む雷太。しかし、ゲンさんの急な脱退という状況を考えれば、ここで行動を起こさないわけにはいかない。悩んだ末に、雷太は指音を誘うことを決意する。


指音の視線が雷太に移る。「ん?誰だい?そこのボーイは?龍之介くんの友達かい?」


雷太は一瞬ためらうが、すぐに微笑んで答える。「初めまして、僕は黒崎 雷太。『Hell’s Gatekeepers』というバンドのマネージャーをしているんだ」


指音は興味津々といった様子で、「バンドのマネージャー?それで、そのマネージャーくんが僕に何か用があるのかい?」と尋ねる。


雷太は一つ深呼吸をしてから話し始める。「実は、急遽ギタリストが脱退することになって、代わりを探しているんだ。そんな時、学園祭の君の演奏を見て、君以外には考えられないと思ったんだ」


指音は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻り、「ふふ…ありがとう。それは光栄だ」


指音はしばらく考え込み、その後、魅力的な笑みを浮かべる。「『Hell’s Gatekeepers』は実際は見たことないけど、有名なバンドだってことは知ってるよ。それに、ヴォーカルの魔王様のカリスマ性も聞いたことがある。自分より美しい存在はいないと思っているけど、彼のカリスマ性は実に興味深いね」


雷太はすぐに考えをまとめて答える。「『Hell’s Gatekeepers』のリーダー…つまり魔王様は、非常に忙しい人で、簡単に会うことができないんだ。でも、君の演奏がどれだけ素晴らしいかを魔王様に見せたいんだ。だから、後日スタジオで魔王様に会ってもらえないか?」


指音は続ける。「…分かった、その話に乗ってみよう。君たちのバンドにどれだけの実力があるか、確かめさせてもらう。僕が加入するかはその時に決めるよ」


雷太と龍之介は顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべる。


雷太は胸を張り、「きっと君の才能なら、魔王様もすぐに認めてくれるはずだ」と自信を持って答えた。


指音は微笑みながら、「ふふ…それは楽しみだね。では、スタジオでまた会おう。君たちの音楽と魔王様のカリスマ性、どれほどのものか確かめさせてもらうよ」と答えた。


指音は心の中で、自分の美しさとカリスマ性を持つ魔王に対して対抗心を燃やしていた。どちらがより優れているか、その結果に興味を持ち、期待に胸を膨らませていた。



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