第3話 六弦の喪失

ステージは暗闇に包まれ、一筋のスポットライトが照らされる。そこに立つは「Hell’s Gatekeepers」のボーカル、魔王様。彼の声がサバトの夜に響き渡る。


「咲き誇れ、華達よ…我々の音楽で、この魔界への階段を駆け昇れ!」


瞬く間に、激しいギターのリフが始まり、ドラムのビートが会場を揺るがす。キラーチューンの「魔界への階段」一度聴いたら耳から離れない、その癖になりそうなギターリフ。華たちは一斉に叫び、手を振り、熱狂の渦に身を任せる。彼らの情熱が、まるで魔力を帯びたかのようにステージを包む。


ライブが終わり、ライブハウス「world of spirits」の店長、「明日出あすで もうす」が雷太に近づく。見た目は筋肉質でムキムキでこわおもての見た目だが、彼の声は意外にも感高く柔らかい。


「魔王ちゃん、今日のライブも最高だったわ。あなたたちの音楽は、本当に魂を揺さぶるのよ」


彼は才能のあるバンドを見つける目利きで知られ、その実力もさることながら、その見た目とおかま口調がギャップがあって魅力的な人物だ。


「来週もいい感じのブッキング入れといたから、トリ宜しくね、また魂を揺さぶるようなライブを期待してるわよ。うふふ…」


雷太は彼の言葉に頷き、感謝の意を表しながらライブハウスを後にする。彼の心の中では、次のステージへの期待が既に高まっていた。



翌朝、雷太の玄関のドアが激しく叩かれる。彼が目を覚ますと、そこには焦った表情の龍之介が立っていた。


「大変でやんす!大変でやんす!」龍之介は息を切らしながら叫ぶ。


「落ち着け、龍之介。何があった?」雷太は彼を部屋に入れ、深呼吸を促す。


「ゲンさんが…ゲンさんが脱退するって言ってるでやんす!」龍之介の声は震えていた。


六弦むげん隼雄はやお、通称ゲンさんは、我がHell’s Gatekeepersのギタリスト。ギターのテクニックはなかなかなもの。イケメンでありながら、その訛りは超田舎出身を感じさせられるものだったが、そこがまた愛嬌のある憎めない人物。龍之介によると、ゲンさんの父親が倒れ、彼は急遽実家の農業を継ぐことになったのだという。


「来週のライブ、どうするんでやんす?このままじゃライブできないでやんすよ!」


雷太は深く考え込む。もうすでにライブは決定していて、バンドは確かに大ピンチだった。しかし、彼はただ手をこまねいているタイプではない。


「分かった。今は落ち着いて、ゲンさんに連絡を取ろう。彼の決断を尊重する必要がある。それから、代わりのギタリストを探すか、セットリストを変更して三人でやるか決めよう」



龍之介は雷太の冷静さに安心し、二人はすぐに行動を起こすことにした。


雷太は深く息を吸い込んだ。ゲンさんの脱退は、Hell’s Gatekeepersにとって計り知れない損失だ。


すぐゲンさんの意思を確認する為に連絡をした。

プルルル…プルルル… 「もすもす、六弦だす」相変わらずゲンさんの訛りはすごい。


「あ、魔王だけど…」雷太はゲンさんの決意がどれほどかが知りたかった。

「あ、魔王さん!急なこったですまんね…今、わし田舎に戻ってるとこなんだすよ。もう、そっちさ戻らねえから…ほんとすまんねえ…」結果は日を見るより明らかだった。


これは、急いで次のギタリストを探さないといけない。しかしHell’s Gatekeepersの楽曲はどれも難易度が高い、ただの音符の組み合わせ以上のものを表現していて、それは魂を揺さぶり、人々を熱狂させる力を持っている。そう…熱狂させなければいけないのだ。


「ゲンさんくらいのギタリスト…そんな都合のいい…あっ!いるでやんす!」龍之介が都合よく誰か思い当たったようだ。さすが前世では我の幹部だった男。

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