第5話 激昂の指音

魔王様率いる「Hell’s Gatekeepers」はヴィジュアル系ロックバンドだ。


ドラムの田中 龍之介(ステージネーム:リュウ)

リュウがドラムスティックを握ると、舞台が一変する。彼のビートは生まれ持ったリズム感とパワフルさで観客を魅了する。能天気で脳筋、いわゆるバカだが、その明るさでバンドのムードメーカーとして機能している。


ベースの音撫おとなで 四狼しろう(ステージネーム:ロウ)

ステージに佇むその姿は、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせる。彼の名はロウ。無口で何を考えているのか分かりにくいが、ベースを奏でるその指先には魔法のような力が宿る。ボソボソと呪文のように唱える姿が一層その神秘性を高め、「サバト」に深みと重厚感を与える。ロウの存在がバンドのサウンドを支え、その音楽に独特の魅力を加える。


ボーカル:魔王様

「サバト」の中心に立つその姿。黒ずくめの衣装に身を包み、圧倒的なカリスマ性で全てを支配する彼こそが、Hell’s Gatekeepersのリーダー、魔王様だ。その正体は謎に包まれており、普段はどんな生活を送っているのか誰も知らない。しかし、夜になるとステージで世界を変える力を持つロックスターに変貌する。彼の声は天を裂くかのように響き渡り、「華」たちの心を掴んで離さない。魔王様の存在がバンドの中心であり、全てをまとめ上げる力となっている。




スタジオの空気は重苦しく、メンバーたちの表情もどこか気まずい。全員が何かを待ち望んでいるが、その焦りが場をさらに緊張させていた。


「で…この僕をこんなに待たせて、肝心の魔王様はまだ来ないのかい?」

指音は苛立ちを隠しきれず、冷たく問いかける。


「も…もう少しだけ待って下さいますでしょうか」

雷太と龍之介が必死に彼をなだめようとする。


その横で四狼は相変わらず「ボソボソボソ…」と呪文のように呟いている。何を考えているのか分からないが、そのミステリアスな雰囲気がますます不安を煽る。


「僕は待たされるのが嫌いなんだ」

指音の怒りは頂点に達し、今にも帰ってしまいそうだ。


「あと少し、あと少しで来やすので…」

龍之介が懸命に説得を試みるが、その声には焦りが滲んでいる。


なぜこんなことになっているのか?理由はシンプルだ。雷太が魔王様に変身するためには、変身道具が必要不可欠。その中でも、メイク道具が絶対に必要なのだ。そのメイク道具が先日切れてしまったのである。


急いでネットで注文したメイク道具が、今日の午前中に届くはずだったのに、なぜか、まだ到着していない。このままでは、雷太は魔王様になれず、指音は怒って帰ってしまうだろう。ギタリストが確保できないままでは、今週のライブは成り立たない。まさに絶体絶命のピンチなのである。


重苦しい沈黙がスタジオに漂う中、全員の心は一つの願いに集中していた。「どうか、メイク道具が早く届いてくれますように…」



その、重苦しい沈黙を打破するように、龍之介が一つの案を出す。


「そうでやんす。少しセッションをしないでやんすか?」


雷太はすぐにその提案に乗る。「そ…それいいね。魔王様が来る前に一回合わせておこうよ!君の美しいギターもメンバーに聴いてほしいし!」


指音は少し考えた後、ため息をついて答えた。「ふん…わかった。龍之介にはこの前の学園祭での貸しがあるからね」


メンバーたちは少し安堵の表情を見せる。しかし、指音は続けた。「ただし…10分。10分過ぎても魔王が来なかったら、僕は帰るからね。その時はこの話も無かったことにしてくれ」


「じゃ…じゃあ、僕は外で魔王様を待ってるね」雷太はそう言いながら部屋を出る。


雷太が部屋を出ると、スタジオの雰囲気は少しだけ和らぎ、龍之介がドラムセットに座り、準備を整え始める。四狼はベースを手に取り、静かに弦を弾いて音を確かめている。


「じゃあ、始めるでやんすか?」龍之介がリズムを刻み始める。


一方、外で待つ雷太は、心の中でメイク道具が早く届くことを祈りながら、焦りを抑えつつ、魔王様へ変身する為の準備をしていた。


10分という限られた時間の中で、Hell’s Gatekeepersのメンバーたちは、自分たちの音楽を信じ、全力で演奏することで、スタジオに響き渡るメロディが奇跡を呼ぶことを願っていた。


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