ネコの尻尾 「Funkyナース2024 Bチーム」より

私は影をなくした

夢に出てきた一本の橋も飛び越えてしまって

中流の川だと思って、だから飛んでみたはいいが

もし鏡だったら

宙を飛ぶ間に身体は古びて、くすんでいくのかな

岸辺のポプラ並木があって、見上げている

古い石造りの家があって、胸をこすって銀色するように


夜の空想は旅の手掛かりだった

泥まみれの馬車を頼んで

うさぎを焼いていたのを思いだして乗せてもらえた

先の見えない、あぜ道をガタゴトガタゴト

抜けた先に森があって

ポツンと一条の光の差し込む 牢屋

ぼろ切れに霞む引き締まった身なりの男たちが学問をしている

真昼、明日が馬の休息の日


大理石を糸魚川構造線が産む マグマの森が目を焼いて

真っ赤な十字架が、猛烈な修道院を睨み付ける

まだ火の粉も舞わない、蛍色の合奏があるのに

補給路は深い翠の淵に寸断される


台風が近いんだ

前の時も、学生だった時も

ビデオは流れた、落とし物はどこ行ったんだろ

素足になって、綺麗な掃除の人も

モップは手洗いだよ

見えない 見えないとだけ言っているのは

誰かがいるから


存在すら喪う

台風の目がくっきりとレーダーに映し出される

布団を蹴りながらピリピリするいびきの鼓膜が

森の道を開けてくれた

土砂降り 濡れる湿布 火照る息 

   雨は弱るし 風も凪が増える


鏡はどこ行った?

運転するのは私 馬車の展示物は人目を気にしてささやいた

飯はつくってある 作り置き

非常灯火を確認する


気合いも根性も

男たちが語り出すかもしれない

私は自分を去ってしまう影も忘れて


走って走って、走り続けて息も切らさず

景色を、姿を追っている

森を抜けると、何が待ってるのか

それより明日の天気は木漏れ日を頼りにするしか読めなくて、

岩陰に穴倉がいくつかあるから

この森はすがすがしい そうして丸太をくぐった。

その向こうに、デジャビュの黒猫が目を細めて

いびきをかいていた

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