第29話 非モテブサメンとちょいクズイケメンと爽やか美少年の男子トーク

「うう……あの神官様、本当に人間か?」 

 仰向けに倒れてファロンに治癒術をかけてもらいながら、ボーロがぶつぶつと恨み言を言っている。


「ボーロ様、本当に強いですね!」

 治癒術を施しながらも、未だ興奮冷めやらない様子でファロンが言った。

「いやいや、お前のお師匠さんに比べたら俺なんざ赤ん坊以下だろ」

 起き上がったものの、痛みのせいか、はたまた悔しさのせいかボーロは顔をしかめながら言った。


(そうかなぁ……)


「そうでもないと思いますよ」

「なんだよ、ノッシュお前まで」

「俺はマリル様が魔王城で戦っているところを見てましたけど」

「そういえば、そうだったな」

「その時に比べたら、さっきの戦いのほうがマリル様の本気度は高かったと思います」

「え、マジ?」


 半ば不貞腐ふてくされたようだったボーロの顔がパァーッと明るくなった。

「て、お、俺をおだてたって何にもでねえぞ、ノッシュ」

「別にそういうつもりは……」

「よし、今度お前が告白する時に俺が影からサポートしてやろう」

(早速出てきた)

「やめてくださいよ」

「え、ノッシュ様、誰かに告白するんですか!?」

 興味津々という表情でファロンが聞いてきた。


「頼むよ、それを聞かないでくれ、ファロン君……」

「まあ、なんとなくは想像できますけど」

 と、見かけによらずしっかりと見るとこは見ているらしいファロンだった。

「そういうお前はどうなんだ?」

 ボーロがファロンに聞いた。

「え、僕ですか?」

(とぼけている様子はないな……)

 ニルのことはどう思っているのだ、と急に保護者モードになってしまう俺だった。


「あの子のことはどう思ってるんだよ、なんて名だったか、あのちっこくてかわいい子は……?」

 ボーロが聞くと、

「ニルですか?」

 ファロンはあっさりと答えた。

「そうそう、ニルだ、ニル」

「そうですねぇ……」

 しばし考えるファロン。

「大切なかわいい妹、かな」

「「うーーん」」

 俺とボーロが同時に唸ってしまった。


「それはどうなんだろう……な、ノッシュ?」

「いや、俺に聞かないでくださいよ」

「あの、何かまずいこと言いましたか、僕」

 ファロンは困惑した表情をしている。


 そんなふうに、いつの間にか俺達三人は地面に座ってくっちゃべっていたが、そこに軽やかな足音が聞こえてきた。

「ファロン様!」

 ニルが駆け寄ってきてファロンの横にしゃがみ込んだ。

「皆で何を話してるの?」


(気をつけろ、ファロン君!)

 という思いを込めて俺はファロンに視線を送った。

 とはいえ、どう気をつければいいのかは俺にもわからないのだが。

「ちょうど今、ニルのことを話していたところだよ」

 と、爽やか笑顔でファロンが答えた。

「私のこと?どういうお話?」

 ニルが期待を込めて聞き返した。


「「あ……」」

 俺とボーロが小さく声を出してファロンを制止しようとした。

「ボーロ様に聞かれたんだ、僕がニルをどう思ってるのかって」

「あーーファロン君、それ以上は……」

 ボーロは明らかに動揺している。


「それで?」

 聞き返すニルの目は真剣だ。

「それで、ニルは僕にとって大切なかわいい妹、て言ったんだ」

 ファロンがこれ以上ないくらいの爽やか笑顔で言った。


 なんとも言えない沈黙が訪れた。


「あれ……?」

 ファロンは笑顔のまま固まってしまった。

「ファロン様なんて……」

「ニル……?」

「ファロン様なんて大嫌い!!」

 そう叫ぶと、ニルは立ち上がって施設の方へ向かって走っていった。


 ちょうどそこにテシリアが居合わせたので、ニルはテシリアに激突するように抱きついた。

「ニル!どうしたの!?」

 突然のことに驚くテシリアに抱きつきながら、ニルは声を押し殺すようにして泣き始めた。


「あちゃぁーー……」

 ボーロが天を仰いで額に手を当てた。

「あの、僕、何かいけないことを……?」

 ファロンも困惑を通り越して半泣き状態だ。

「俺もそっち方面のことは全くわからないんだが……」

 そう言いながら俺はボーロを見た。

「うーーん、時と場所かなぁーー……」

「時と場所?」

「俺達がいるところで言っちゃったのがなぁ」

「でも、僕は嘘はついていませんし、人に聞かれて恥じるようなことも言ってません。ニルのことは僕の全てをかけて守りたいって思ってますから」

 誠実さに溢れた表情でファロンは熱弁した。


「ああ、もちろんだ、だがな」

「だが?」

「ああ、もしあの時『後で二人になった時に話すよ』って言ってたらどうよ?」

「え……?」

 ボーロの言葉にファロンが意表を突かれたような表情になった、その時、


「ちょっとあなた達!」

 テシリアが涙に暮れているニルを抱き寄せながら俺達のいるところへ、決然とした様子で歩いてきて言った。

「ニルに何を言ったの!?」

 テシリアが猛烈な剣幕で俺達に詰め寄ってきた。

 そして、やはりと言っては申し訳ないが、主たる矛先はボーロに向けられた。


「私にならまだしも、ニルにまで酷いことするなんて許さないわよ、ボーロ=グッシーノ!」

 もし腰に剣を提げていたら間違いなく抜いていただろう、という勢いだ。

「いやいや、待ってくれテシリア、俺は……」

 ボーロは立ち上がって、両手を前に出しながら後ずさった。


「何の騒ぎだ?」

 そこへ、いつの間に来ていたのかマリルが入ってきた。

「う……!」

 まさに進退窮まった状況にボーロの顔が青ざめる。

「いえ、これは……」

 俺もなんとか状況を説明しようとしたが、

(どう説明したらいいんだ……)

 と、言葉に詰まってしまった。


「もしや、貴様……!」

 マリルはボーロを睨みつけた。

「ひっ……」

 蛇に睨まれた蛙とはまさに今のボーロのことだろう。

 その時、

「違うんです、マリル様!」

 とファロンがマリルに向かって言った。

「何が違うのだ?」

 そういうマリルの口調は、ボーロに対する時とは真逆の優しげな声だった。


「悪いのは僕なんです」

「お前が悪いことなどないであろう」

(マリル様、ファロンには甘いなぁ……)

 と、俺は密かに思った。

「いえ、ニルを悲しませるようなことを言ってしまった僕に、それではいけないとボーロ様が教えてくれてたんです」

「いや、そこまで大袈裟おおげさなことではないぞ」

 ボーロが言うと、マリルとテシリアがギロッと彼を睨んだ。

「スンマセン」

 すかさず謝るボーロ。


 ファロンはテシリアにすがり付いているニルのところに歩み寄った。

 ニルは緊張したように、より強くテシリアにしがみついた。

「ニル」

「……」

 ファロンの呼びかけにニルは視線だけで応えた。


「さっきは僕の言葉が足りなかったね」

「……」

「だから、僕とニルのふたりだけでゆっくりと話したいんだ」

「……」

「ニルが好きな、桃水を飲みながら」

「……りんご」

「りんご?」

「うん、今はりんご水が好き」

「そうしたら、ふたりでりんご水を飲みながら話しをしたいな。いいかい?」

「うん、いいよ……」


 ニルは恐る恐るといった様子でテシリアから離れた。

 そんなニルにファロンは爽やか笑顔で手を差し出した。

 ニルはほんのりと頬を染めながらファロンの手を取り、ふたりは施設の休憩所へと歩いていった。


「えーーと、これで解決ってことでいいのか?」

 呆気にとられたようにボーロが言った。

「そうですかね……」

 俺にもよくわからないが、とりあえずは事態は収まったようだ。

「うむ、さすがは私が見込んだだけはあるな、ファロンは」

 思いっきりドヤ顔でマリルが言った。


 それにしてもファロンの行動力は凄いと、俺は素直に感心した。

(というか、俺も見習わなきゃいけないかも……)

 なんて考えていると、

「お前も負けてられねえな」

 と、まるで俺の心を読んだかのようにボーロが囁くように言った。

「は、はい……」


 そう答えた俺だったが、さっきボーロが言っていた言葉が妙に頭に残ったていた。


(時と場所って言ってたよな……)


 俺にその時は来るのだろうかという不安が頭をよぎった。

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